気になるライセンス形態だが、「クラウドでシミュレーションを行う、ということ自体が新しいことなので、徐々に取り組みを拡大していくことが必要だと考えている。また、既存の我々のライセンスモデルもあり、ビジネスモデルが継続できなくなるようなことは避けたい」との見方であり、新たなモデルとして、時間あたり、もしくは使用した分量あたりで支払いを行う従量課金型の「Elastic Licensing」の提供を進めているという。
ホワイトボードを用いて「Elastic Licensing(従量課金型ライセンス)」の概要を説明してくれたANSYSのVP Enterprise Solutions & Cloud(クラウド担当バイスプレジデント)であるレイ・ミルヘム(Ray Milhem)氏 |
ただし、同ライセンスを活用することで、ユーザーは使いたい時、使いたいだけ、クラウド経由でシミュレーションを実施することができるようになる、とは簡単にいかない。「同ライセンスは12カ月契約のリースや、売り切りといった従来型ビジネスモデルを補完する形態」と同氏が表現するように、あくまで、これまで同社の各種ツールを活用してきた顧客企業が、繁忙期だけ追加でシミュレーションしたい、この作業のためだけにあの製品(シミュレーションツール)を購入したくない、といったニーズを補完する意味合いが強い。
もう少し詳細に説明すると、ユーザーは最初に「ANSYS Elastic Unit(AEU)」と呼ばれるユニットを15000AEUを1つの単位として購入してプールする(最大12カ月の利用期間設定がある)。AEUは、例えばプリ/ポスト処理では1時間あたり4AEUが消費されるといった具合に、作業に応じて消費する量が決まっており、プールの中から順次消費されていくといった流れとなる。もし、15000AEUを使い切ってしまった場合、新たに15000を1単位としてAEUを追加購入することとなる。また、こうした前払い方式以外に、本当にすべて利用を終えた後、使用したAEUの総量に基づいて支払う、といった後払い方式もあるが、AEUあたりの料金は前払い方式に比べて割高に設定されることになるという。
「このライセンス方式はもともと大規模顧客を対象としたスキームであり、すでに活用してもらっている顧客からは、後1000AEUだけ欲しい、といった細かいリクエストは出てきていない。今後、中小規模の企業などからそうしたリクエストが出てくれば、対応を検討していく」(同)、ということで、現時点では、これまで価格などを要因として、導入を躊躇してきた企業がクラウド化したことだし、試しに使ってみよう、といったことはまだまだ先の話になるようだ。
ただし、同氏としても、「すべてをクラウド上で実現可能なシミュレーション環境環境を構築したい、といった顧客が来たら、それにマッチした対応を進めたい」と市場のニーズ次第ながら、柔軟に対応を図っていくとしており、決して、現状のライセンス形態のまま続けていく、というわけではないようだ。
なお、同ライセンスの提供については、北米にて特定のクラウドホスティングサービス上にてすでに始まっているほか、Enterprise Cloud上での提供を6月末から7月頭にかけて開始、第4四半期までにはオンプレミスでの提供も進めて行きたいとしているが、日本での提供についてはまだ検討を重ねていく段階とのことで、しばらく待つことになりそうである。