次の問題は、カナダの13州の地図を隣り合う州は異なる色で塗るには最低、何色必要かというもので、この問題を解くには120 Qubitを必要とするとのことである。そして、隣接州の色は異なるという問題の制約を、コスト関数の最小化問題にマッピングして解く。
次の図はこのカナダの州の塗り分け問題をXeon E5-2650 v3でシングルスレッドで計算した場合と、PEZY-SCで計算した場合の処理時間を示している。繰り返し回数が1000回の場合はPEZY-SCでの処理時間は22.2ミリ秒に対してXeonでは316.3ミリ秒と14.2倍の時間が掛かっている。また、3000回の場合は、66.6ミリ秒対743.5ミリ秒で11.2倍である。ただし、Xeon E5-2650 v3は10コア×2スレッドであるので、全体の1/10のコアしか使っていない。また、2スレッドのSMTを使えばさらに性能を上げられる可能性もある。しかし、PEZY-SCも1024コアの内の120コアしか使っていないので、全コアを使えるようにすれば、9倍程度に性能を上げられる可能性がある。ということで、この処理時間は、Xeon E5-2650 v3とPEZY-SCチップの性能比較としては正確ではない。
次の図は、量子ビット数を変化させた場合のXeonとPEZY-SCの処理時間を比較したもので、カナダの州の塗り分け問題で使った120 Qubitの場合では、257.6ミリ秒対23.5ミリ秒であり10.96倍であるが、2052 Qubitでは2708.0ミリ秒対58.0ミリ秒と49.69倍と差が開いている。
これはXeonは常に1スレッドで計算を行なっているので、Qubit数が増えると処理時間が増えるが、PEZY-SCの場合は、Qubit数が増えると動作するPEの数も増えて行くからである。
この石川氏の発表には、物理的な量子アニールやSAとの性能比較はないのであるが、Googleの発表には、つぎのようなグラフがある。物理的な量子アニールを使っているD-Waveが一番速いのは当然であるが、Qubit数が少ないケースではSAがそれに次ぐ速さである。しかし、Qubit数が1000に近づくと、50%精度の答えを出すまでの時間はQMCの方が速くなっている。この傾向が他の問題にも当てはまるのかどうかは分からないが、一般的には、問題規模が大きくなるとSAよりも量子アニールをシミュレートするQMCの方が収束性が良く、速いという見方が広がっているとのことである。
D-waveとSA、QMCの性能を比較したGoogleの資料 (出典:https://research.googleblog.com/2015/12/when-can-quantum-annealing-win.html) |
まとめであるが、QMC法の量子アニーリングをPEZY-SCに載せて評価を行った。各量子ビットごとに処理が変化する部分にはPEZY-SCのMIMDアーキテクチャが有効であった。D-Waveのマシンは、現在1000 Qubit程度しか扱えないが、Shoubu全体を使えば、もっと大きな問題を載せることができる。また、D-waveでは直接結合できるQubitの数は6個に制限され、それ以外は中継Qubitを入れる必要があるが、QMCのシミュレーションなら結合は自由にできるというメリットがある。このため、QMCは、本格的なハードウェアが投入されるまえのアルゴリズム開発などに有効に使えると考えられるという。