また、田村氏はセミナーにおいて、「移転価格文書 作成義務化」で留意すべきいくつかのポイントを説明した。
対応は早めに
同氏は、移転価格文書作成に対応できるのは、大手監査法人を中心に300名程度と推定。一方で、ローカルファイルの作成義務が発生する企業は3万社にのぼる可能性があるという。同氏は1社あたり作成に1カ月程度を要するので、「すべてに対応するには、一人あたり100社を担当しなければならず、これはありえない数字」と語った。
そして、「大手企業優先になり、中規模の会社は取り残される可能性がある。内製化や早めの対応が現実的だ」とアドバイスした。
国外関連取引の切り出し損益
ローカルファイルにおいて記載する情報はいくつもあるが、その中でとくに注意するのは、「国外関連取引の切り出し損益(親会社と子会社の両方)」だという。
これは海外子会社の利益を、第三者との取引(非関連者取引)と親会社との取引(関連者取引)に分けて報告するものだ。この中で、両者合算では適正な利益率であっても、親会社との取引だけが赤字の場合、現地の課税当局から親会社に対して不当に安い価格で販売しているのではないかという疑いがかけられ、親会社への輸出価格の引き上げが求められる可能性があるという。
また、海外子会社の利益率が高い場合は、本社からの所得移転を疑われるという。
田村氏は、利益率は取引価格によって上下するので、利益率が適正な範囲に収まるよう、半年単位で取引価格を見直すことが必要だと注意を促した。
ローカルファイルを作成するための基礎資料も提出を求められる
また、ローカルファイルを作成すための基礎資料および関連資料は提出することが求められる可能性があり、請求から60日以内に提出する義務があるため、それに備えあらかじめこれらを作成しておく必要があると指摘した。
ローカルファイルの作成は移転価格更正リスクを考慮して柔軟に対応する
課税当局がローカルファイルやその基礎資料の提出を要請する場合、移転価格上の問題がありそうな海外子会社がなると考えられるため、そのようなリスクの高い子会社の移転価格文書は外部専門家に委託して作成することが望ましい。一方、リスクが低いと思われる海外子会社の文書化は、自社グループないで内制するというも検討すべきであると指摘した。
移転価格文書の作成には多大なコストと時間がかかるため、その軽減を図るためにも今後は移転価格文書作成をコンプライアンス業務と考えて対応してくことが必要とアドバイスをした。