ウェアラブルデバイスの電源が常にバッテリーであるということも、どの接続方法を使用するかに影響する。Bluetooth Low Energy(BLE)は低消費電力の要件を満たすように設計されており、比較的少量のデータ送信に理想的だ。そして、ほぼすべてのスマートフォンはこの通信方法をサポートしている。しかし、数MBといった大量のデータを送信する必要がある場合は、BluetoothクラシックまたはWi-Fiの使用を検討すべきかもしれず、その上、通信範囲の問題を考慮する必要がある。たとえば、BLEの標準的な通信範囲は、見通し線上で30m程度であるため、その範囲内での利用を想定したデバイスには向いているが、そうでないデバイスには不向きであることがわかる。

フィットネスバンドの例では、着用者がスマートフォンも携帯していると想定されるので、距離は問題にならない。ただし、他の通信方式からの独立性と信頼性が必要であるために、あえてセルラー通信を使用するウェアラブルアプリケーションもある。スーパーバイザーのいない場所で単独で仕事を行う人、いわゆるローンワーカー(在宅勤務者、出張が多いビジネスマン、石油やガスなどのプラントなど広範囲にわたる場所での単独作業者、トラック運転手、警備員など)が使用するトラッキングバンドはその一例だ。そのほかにも、ほぼリアルタイムで位置データを送信する、子供やペットの追跡アプリケーションなども挙げられる。

通信に加えて、多くのウェアラブルデバイスは着用者の位置を追跡して記録する必要がある。スポーツ用パフォーマンスモニターとサイクリングウォッチはこれを利用して着用者の心拍数を実際の緯度、経度、標高にオーバーレイ表示する。測位機能は、2つの方法のいずれかでデザインに組み込むことができる。最もわかりやすい方法は、全地球航法衛星システム(GNSS)レシーバーを使用する方法だ。当然ながら、あらゆるウェアラブルアプリケーションで、できる限り小型で電力効率の高いレシーバーが必要になる。u-bloxの例となるが、小型かつ電力効率の高いGNSSレシーバーの例として「EVA-M8M」を挙げよう。これはあらゆるウェアラブルデバイスの使用に適した43ピンLGAパッケージGNSSモジュールだ。この7mm×7mm×1.1mmの表面実装デバイスは0.13gと軽量で、連続使用時の消費電力は最大25mAだが、1秒ごとにGNSSデータを更新するパワーセーブモードでは5.5mAにまで抑えられる。スペースに限りのあるウェアラブルデバイスには、このような小型軽量なGNSSモジュールを選択することが重要である。

図2 GNSSモジュールの例。u-blox EVA-M8Mのブロック図

すべてのGNSSシステム同様、信頼性の高い測位が行えるかどうかは、アンテナが衛星を「見る」ことができるかどうかに依存する。これを室内や衛星信号が大きなビルに反射する場所 (たとえば密集した都市部や限界信号条件のエリアなど) で実現することは、現在の大きな課題である。前述のローンワーカー向けアプリケーションなど、一部のウェアラブルデバイスは、他のデバイスよりも信頼性の高い室内受信を必要としている。これがデザイン要件であり、主な通信手段がセルラー方式である場合は、モバイルネットワークを利用した測位方式でGNSSデータを補完することができる。セルラー・ネットワーク基地局位置のデータベースを管理することにより、GNSS信号環境が悪い場所やGNSSシステムが無い場所でもデバイスの位置がわかる技術を利用し、そのサービス対応モジュールの以前の観測結果に基づいて、デバイスのおおまかな位置を推定することができる。u-bloxが提供している「CellLocate」もそうした技術の1つで、図3にてその仕組みの例として紹介したい。

図3 u-blox CellLocateを用いたモバイルネットワーク測位技術の仕組み例