イノベーション創出にむけた大阪大学の取り組み
続いて、大阪大学 理事・副学長 八木康史氏が、同大学の「データビリティ」に関する取り組みについて講演を行った。
大阪大学は、ロイター通信が2015年9月に発表した「革新的な大学ランキング」で、世界第18位、国内首位を獲得している。先日も、中外製薬と同大学免疫学フロンティア研究センターとの共同研究契約を発表するなど、産学連携に向けた取り組みに積極的な印象だ。
実際に大阪大学は、同大学モデルの新しい産学連携の形として「産学共創」を提唱し、基礎研究段階からの包括的な産学連携および産学協働のイノベーション人材育成を進めている。今年4月には、ビッグデータの利活用促進を目指した「データビリティフロンティア機構」を設立した。
ビッグデータ利活用の重要性が叫ばれるようになって久しいが、昨今ではゲノムデータ、材料構造データ、脳データ、映像データなど、科学分野においても多様なデータが生まれている。データビリティ(datability)とは、dataとabilityを合わせた造語で、ドイツ・ハノーファーで2014年に開催されたIT見本市「CeBIT」において提唱されたもの。「大規模なデータを持続可能(sustainability)かつ責任ある形(responsibly)で活用する能力」であると定義されている。
八木氏は、「sustainabilityとresponsiblyは非常に良いことであると考えた。データの利活用や高度化を図るためには、データビリティを意識したサイエンスを進め、実践していかなければならない」とデータビリティフロンティア機構発足の経緯を説明した。データ駆動型の研究推進に向けた研究スタイルの改革、データの世界標準化、データの利活用ができる人材育成の3つが同機構のミッションだ。
同機構では、ライフサイエンスやシステムデザイン、光・量子デザインなど同大学内8つの関連部門の強化・連携を行い、学際研究を推進するなかで、データビリティサイエンティストおよびデータビリティエンジニアを養成していく。データを活用した学際研究として、たとえば、センシングデバイス技術と機械学習の技術とを組み合わせることによる、細菌やウイルスを種類に応じてセンサで数え上げる技術の研究開発などが考えられる。
こういった研究を進めるために、同機構では、統計学、数理科学、知能情報学などを専門とする部門をコアに置き、研究者同士のマッチングや異分野間でのデータのマッチングを進めているところだという。これに加え、知財、倫理・法的問題、セキュリティなどを扱う部門、ネットワーク、データベースなどといったインフラを支える部門もコア部門として設置。現在は、学内109名(兼任67名、研究協力者42名)の研究者が同機構に関わっているという。
「この機構を通して、データ駆動型の研究推進およびデータベースの構築、人材育成を進めることで、未来のイノベーションに繋げることができれば」(八木氏)