大学の役割は元来、教育・研究活動が主だったといえるが、昨今では、融合研究の創出や、オープンサイエンス時代に応えるプラットフォームの構築、産学連係や国際連携の活性化、社会問題の解決など、科学技術イノベーションの担い手として、さまざまな役割が期待されつつある。これからの日本の大学は、どうあるべきだろうか。

トムソン・ロイターは6月3日、大学の新たな研究戦略のあり方について議論すべく、大阪大学・中之島センターにて、学術シンポジウム「進化する大学の研究戦略 - 科学技術イノベーションの源泉へ」を開催した。

大阪大学・中之島センター

科学技術イノベーションの推進において大学に求められるものとは

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 原山優子議員

今年1月、2016~2020年度の第5期基本計画が閣議決定された。科学技術基本計画は、科学技術基本法に基づき政府が策定する、10年先を見通した5年間の科学技術の振興に関する総合的な計画。第5期は、総合科学技術・イノベーション会議として初めての計画となり、日本を「世界で最もイノベーションに適した国」へと導くものであるとされている。

同シンポジウム冒頭では、この第5期科学技術基本計画の策定に携わった内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 原山優子議員が、科学技術イノベーションにおける大学に対する期待について、基調講演を行った。

原山氏は、第5期科学技術基本計画について「これからの5年は、過去5年にくらべてドラスティックに変わるという認識。世界にはさまざまなトレンドの波があり、日本はそれをキャッチアップしていくというのが戦後の流れだったが、現在は世界のどの国でも変化の波が起きている。大変革の後追いではなく、先取りをする立場になるためのビジョン」であると説明した。

さて、第5期科学技術基本計画と大学との関わりについてだが、同計画書は全7章から構成されており、そのすべてに大学が関与していると言ってもよいだろう。したがってさまざまな面において、政府からの大学に対する期待があるといえるが、原山氏は「大学の役割は、一義的には教育」であると強調する。

教育機関として大学が果たすべき役割として「スキル、人的資本の提供はもちろん、ソーシャルキャピタルとしてどれくらいエンパワーできるかどうか」と原山氏。そのために、研究活動や研究インフラの活用が必要になるということについて、研究活動を行いながらも、国際的なネットワークを形成し、若手を育成するなどさまざまな機能を担っているCERN(欧州原子核研究機構)を例に挙げ説明した。

内生的な改革や、学生を中核に据えるアプローチ、同窓会ネットワークの活用、独自性の価値化など、大学への期待に向き合う方法としてはさまざまなものが考えられる。しかし、運営費交付金が財源の大部分を占める国立大学は特に、積極的に行動を起こす余地があるとは言いがたい。これについて原山氏は、「仕方がないと諦めるかどうか。これらの方法を組み合わせることでひとつのアクションに繋げ、個別の大学モデルを提唱することで変わっていくのでは」と提案し、講演を締めくくった。