半導体強化策を連発して"爆"投資する中国政府
中国政府は、2014年6月に半導体産業の育成指針である「国家集積回路産業発展推進ガイドライン」を公表し、半導体の自給率を高めるとともに、2030年までに世界トップクラスの半導体メーカーを数社育成するという目標を掲げ、従来から力をいれていた後工程だけではなく、先端の前工程(ウェハ・プロセス工程)にも数兆円規模の投資をして先端半導体技術で世界のトップランナーに追いつくことを目指している。
さらに、2015年5月には、製造業の高度化に向けた今後10年間の行動計画「中国製造2025」を発表し、ドイツや日本に迫る製造業大国を目指すと宣言した。
中国製造2025では、情報技術やロボット、バイオなど10分野を重点産業に指定し、さらには、これら産業分野の製品の頭脳となる半導体の自給率を2025年度までに70%に高めると目標を定めた。そして、上述のように重慶市長も言及している中国共産党中央政府の第13次5カ年計画(2016~2020年)では、中国製造2025の遂行に向けた支援案が示され、民間企業が半導体産業に投資する際、地方政府など政府と公企業が最大80%まで直接投資できるようになった。
2016年、この第13次5カ年計画は実施に移され、中国政府は、地方政府とともに、イノベーションの促進による経済生産性の向上を目指し、付加価値の高いハイテク産業、とりわけ半導体産業の発展めざして"爆"投資を開始している。
韓国半導体メーカーは自ら中国へ乗り込む
韓国Samsung Electronicsは以前、日本勢から奪い取ったメモリビジネスがいずれ中国勢に奪われることを見越して、自ら中国に乗りこんだ。陝西省西安市に巨大な300mmメモリ工場を展開し、東芝に先んじた3D NANDフラッシュメモリの大量生産基地を生み出した。ライバルの韓国SK Hynixも江蘇省無錫市に巨大300mmメモリ工場を建設してDRAMを量産している。
台湾半導体メーカーも顧客確保のため中国進出
台湾TSMCは、世界で最も急速に成長している中国の半導体市場での強い需要を直に取り込むため300mmファブを江蘇省南京市に建設することを2015年末に発表した。IPおよび製造上の秘密保持のため、100%自社所有するとしている。
ライバルの台湾UMCは、TSMCに先行して、福建省アモイに300mm半導体ファブを建設中であり、さらには、同省泉州にも地方政府の協力でメモリ製造受託ファブの建設を計画している。今回のGFの中国進出で、世界のファウンドリ上位3社((TSMC、GF、UMC))がそろって、中国に300mmファブをもって、中国国内の顧客を奪い合う競争をすることになる。
台湾Powerchip Technologyは安徽省・合肥市(Hefei)における新300mmウェハ対応工場の建設を目指して、同市のHefei Construction Investment and Holdingと合弁工場を建設することで、2015年に合意している。いまのところ、液晶ドライバICなどのロジックデバイスの製造を予定している。
中国地元資本は1兆円単位の爆投資か
中国資本のXMC(Wuhan Xinxin Semiconductor Manufacturing)は、総額240億ドルもの巨額を投じて、湖北省武漢に、地方人民政府と合弁で、NAND型フラッシュメモリおよびDRAMの量産ファブ群の建設を始めている。将来は、ファウンドリ用のファブの建設も計画されている。
中国資本のファウンドリSMICは2015年、中国通信機器トップのHuawei、ベルギーの半導体研究機関imec, 米国ファブレストップのQualcommらとともに、SMICの新設研究開発企業に共同出資し、imec提供のプロセス技術を基に、14nmプロセス開発を急いでいる。同社は北京市に300mmファブも増築中である。
清華大学系ハイテク企業である紫光集団の趙偉国董事長は2016年5月末に貴州省貴陽市で行われたビッグデータ産業と電子商取引(EC)に関する会合の席上、総額300億ドルを投資して、中国国内でメモリチップの生産に乗り出す方針を明かしたと中国メディアが伝えている。同集団は2015年、米国Micron Technology、Fairchild Semiconductor、Western Digital、台湾Siliconware Precision Industries(SPIL)などの買収(あるいは出資)に立て続けに失敗し、Western Digitalが買収したSanDiskを通して東芝四日市のNAND型フラッシュメモリ製造技術にアクセスすることもかなわなかったので、一体どこから製造技術や人材を確保するのか明らかではない。失敗にもめげず、攻めの姿勢をくずさない同集団は次にどんな一手を指すか注目される。
このほか、中国国内でさまざまな半導体工場建設へ向けた巨額の"爆"投資の話が漏れ伝わっている。しかし、半導体製造技術の入手先や人材確保に関して不明確な話が少なくない。安徽省合肥市の人民政府が8000億円出資して建設予定のDRAM工場に、元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏率いる新興企業サイノキングテクノロジーが、設計・製造技術と日本・台湾の製造担当人材を供与するという話も一部で報道されている。ただし、香港に本社を置き、日本にも法人を置くという同社の実態はまったく不明で、同社のWebサイトにも、合肥市との合意に関する明確な情報は未だに掲載されていない。
中国中央・地方政府主導の"爆"投資計画は今後も続々とでてくるだろう。(その全部ではないにしても)いくつかが実現しただけで、世界の半導体産業地図は塗り替えられる可能性がある。世界一の半導体消費国である中国が世界一の半導体製造大国 -外国資本か中国共産党資本かは問わず- になるのはまちがいないだろう。このままでは、IoT向けに爆発的な半導体需要が創造されぬ限り、太陽電池、ディスプレイ(液晶)パネルに次いで半導体(特に、メモリやロジックなどの汎用製品)も供給過剰になるのは必至だろう。