さらに同社は自動運転の実現に向け、各種センサなどから送られてくるデータを処理し、車両制御やインスツルメントクラスタへの表示などの中央に位置する脳に位置づけられるソリューション「BLUEBOX」を2016年5月に開催されたNXP FTF Technology Forum 2016にて発表している。
BLUEBOXの外観 |
BLUEBOXにLidar(右上の黒い八角柱状の物体)、V2X(左の青い箱状の物体)、光学カメラ(左の白い物体)、そして画面外ながらレーダーが接続されている様子 |
BLUEBOXの中身。QorIQは中央(黒い排気ダクトの下)に設置されている |
BLUEBOXは自動運転開発のLevel3、いわゆる条件付き自動化までの実現を見越した開発ソリューションで、カメラやレーダー、Lidar、V2VやV2Iなどの外部とのコミュニケーション機能やセンサなどからの情報を受けて、最適な運転状況を演算し、車両の制御に伝達する役割を担う。「我々は、さまざまなレーダーのための半導体、頭脳のための半導体に加え、ネットワークについてもさまざまな半導体を提供できるというユニークなポジションにいる」とNXPセミコンダクターズジャパン 第一営業・マーケティング本部長の三木務氏は語っており、これを活用して開発を進め、そのまま同系統の半導体を用いて実車両へと展開するといった流れを想定しているとする。
BLUEBOXはLinuxベースの開発プラットフォームで、高度な処理、判断を行うためにCortex-A57を8コア搭載した「QorIQ LS2085A」を搭載しているほか、実際にその演算が正しいのか、といった判断を行うCortex-A53を4コア搭載した「S32V234」の2プロセッサ構成を採用。40W以下で90000DMIPSの演算処理性能を提供するほか、センサやコンピュータビジョンに関するソフトウェアなども提供しており、トータルソリューションとして、顧客の開発環境に組み込んで活用することが可能となっている。
また、三木氏は、BLUEBOXや自動運転に向けた自社内における将来的な流れとして、LS2085AとS32V234が担っているそれぞれの機能を1チップで実現する方向性なども考えられるとしている。Cortex-A57とCortex-A53のいわゆるbig.LITTLEの構成と考えれば、そうした処理を1チップで可能にした製品が提供されてもおかしい話ではない。また、すでに同社はCortex-A57を超す性能を提供するCortex-A72を搭載するQorIQを発表しているほか、ARMはさらにその後継となる「Artemis(開発コード名、製品名はCortex-A73)」がTSMCの10nm FinFETプロセス向けにテープアウトしたことを発表しており、今後、そうした最新世代のQorIQを用いたソリューションが登場するといったことも考えられる。
なお同社では、「実際の道路上でLevel4の完全自動運転車が走れるようになるためには、技術のみならず、法規制の問題など社会の流れそのものが変わる必要がある。そのため、予測としては2019~2020年にかけて高速道路や駐車場といった一部の場所での実用化が認められ、そこから5年程度をかけて、すべての道路での実用化、といった流れになるとみている」との見方を示している。そうした予測を踏まえ、自動車業界には必ずしも最先端の半導体プロセスが用いられるわけではないこと、Cortex-A72搭載QorIQの登場、さらにそれに続く次世代コアの存在などを考慮すると、少なくとも今後の10-15年にわたって、BLUEBOXで生み出された技術が、そうした次世代の半導体製品と組み合わされる形で、自動運転分野で存在感を増していく可能性は高いだろう。