以下、SIP「革新的燃焼技術」において具体的にどのような研究が行われているのか、簡単に紹介する。

ガソリン燃焼チーム

慶應義塾大学大学院理工学研究科 飯田訓正特任教授をチームリーダーとしたガソリン燃焼チームは、スーパーリーンバーン(超希薄燃焼)の実現によって熱効率の向上を狙う。従来、2400K~2600K程度の温度で燃料と空気を燃やしていたところを、1800Kにまで下げることで、熱損失を減らすことができる。スーパーリーンバーンはそのために、従来に比べて半分の濃さの空気で燃焼させようというものだ。

ガソリン燃焼チームの研究開発コンセプトと課題 (資料提供:SIP「革新的燃焼技術」)

しかしこれには、そもそも着火しない、消炎してしまうといったような課題がある。これらの課題に対し、エンジン専門の研究者だけではなく、物理学や計測、素反応などさまざまな分野の研究・技術を担った人が集まっているという。

ガソリン燃焼チームの拠点である小野測器テクニカルセンターのラボ内の様子。単気筒可視化エンジンを利用して検証を行う。100名を超える研究者が入構証を持っているという(一部資料提供:慶應義塾大学 飯田研究室、SIP「革新的燃焼技術」)

ディーゼル燃焼チーム

ディーゼルエンジンにおいてクリーンでかつ高い熱効率を実現するには、燃焼期間の短縮化が必要となるが、その場合、壁面での熱損失および騒音が大きくなってしまうという課題がある。そこで、京都大学エネルギー科学研究科 石山拓二教授を中心とした研究チームは、高速・低冷損・静音ディーゼル燃焼の実現を目指す。

たとえば燃焼期間の短縮に向けては、燃焼が終わった後に緩やかに燃える「後燃え」の所在を突き止めて制御するため、紫外光計測による燃焼・未燃焼領域を特定するための研究などが行われている。

ディーゼル燃焼チームの研究開発コンセプトと課題(資料提供:SIP「革新的燃焼技術」)

制御チーム

東京大学大学院工学系研究科金子成彦教授のチームは、革新的燃焼技術を具現化するための制御システムの構築を目指し、高速3D燃焼解析ソフトの開発や高いロバスト性を有する制御方式の開発などを行う。

「燃焼と制御で文化の違いがあったが、この2年でようやく2つの分野を融合でき、システムとしての形にしていこうという段階になったと感じている」(金子教授)

制御チームの研究開発コンセプトと課題(資料提供:SIP「革新的燃焼技術」)

損失低減チーム

早稲田大学理工学術院 大聖泰弘教授らのチームが取り組む課題は、機械摩擦による損失の半減と、排気エネルギーの有効利用だ。排気エネルギーの有効利用に向けては、ターボチャージャーの高効率化、燃料の改善、熱伝素子の開発など、機械摩擦損失の半減に向けては、低摩擦な潤滑表面および潤滑油の改善を図っていく。

損失低減チームの研究開発コンセプトと課題(資料提供:SIP「革新的燃焼技術」)

以上の研究により、同プログラム開始2年ほどで、既存のガソリンおよびディーゼルに比べて3~4%程度の正味熱効率の向上を果たしているという。杉山氏は、「エンジンのような実用工学の研究は、大変な実験設備が必要になるため、日本では大学から企業に流れていってしまっているという課題があったが、国のプロジェクトとして進めたことで、本当に深い産学連携ができるようになった」と同プログラムについて評価している。

左から、大聖泰弘教授、石山拓二氏教授、杉山雅則氏、飯田訓正特任教授、金子成彦教授

燃焼技術は、自動車産業を支える中核技術であることはもちろん、発電技術などにも応用される裾野の広い基盤技術であるといえる。同プロジェクトにより内閣府は、基盤技術の高度化と人材育成を図り、日本の産業競争力の強化につなげていきたい考えだ。