生涯で尊敬する人物は3人

Intelのトリニティ(三位一体)とも評されるムーア氏だが、半導体業界で印象に残っている人物は3人いるという。そのうち2人は、同じIntelの創業者であるロバート・ノイス氏、先ごろ亡くなられたアンディ・グローブ氏であり、Intelの創業当時から企業を発展させるために苦楽を共にしてきた仲間といえる。そしてもう1人は、John Bardeen(ジョン・バーディーン)氏だという。同氏についてムーア氏は、「トランジスタを発明した1人であり、その開発初期段階に、静かで目立たないが、しかし最初の重要な貢献をした人物として尊敬している」としている。

米国では「The Intel Trinity: How Robert Noyce, Gordon Moore,and Andy Grove Built the World's Most Important Company(インテルの三位一体:Robert Noyce, Gordon Moore,Andy Groveはどうやって世界で最も重要な企業を築いたか)」という長いタイトルのベストセラーが出版されている。邦訳は「インテル:世界で一番重要な会社の産業史」(文藝春秋刊)。ムーア氏が人生のヒーロ―としてロバート・ノイス氏とアンディ・グローブ氏の2名を挙げていることからも、外部(マスコミ)の「インテルの三位一体」という捉え方の正しさを裏付けている。

また、ジョン・バーディーン氏については、日本ではトランジスタ発明者としては、William Shockley(ウィリアム・ショックレー)氏の方がはるかに有名であるが、氏の名前は出てこなかった。それには、歴史的裏付けがある。1957年、ショックレー半導体研究所に在籍していたノイス氏やムーア氏ら8名の社員が、ショックレー氏の偏狭なパワハラに耐えきれず辞職したが、同氏は、彼らを裏切りの8人として生涯恨んだ。この辺の事情は、上記の書籍に赤裸々に語られている。ノイス氏とともに研究所を飛び出した後のムーア氏は、Fairchildを創業し、さらにそこからノイス氏とともにふたたび飛び出し、Intelを創業し、世界一の半導体企業に育てあげることとなる。

たった4点のプロットによる将来予測が50年継続

ムーア氏が、1965年に「Electronics(当時、米国McGrowが発行していた商業雑誌)」の依頼で執筆した記事に掲載された図面(図3)がずっと後になって人々から「ムーアの法則」と呼ばれる経験則提唱の原点となった図面である。

図3 ムーア氏が1965年にElectronics誌に発表した、集積回路に搭載される部品点数の変遷とそれを外装した予測直線 (出所:Intel)

1965年の時点で、当時IC誕生後わずか3年で得られたたった4種類のICの部品点数をプロットしたに過ぎないが、これを外装してその後10年間を予測している。1959年の0(log目盛)いうのは部品点数1に相当するデバイス、つまり単体トランジスタを指す。当時は、単体トランジスタさえあれば高価なICは不要とする意見が主流をしめていたので、Fairchildおよび同社のIC開発責任者だったムーア氏はICが将来有望なことを宣伝するため、後に「ムーアの法則」と呼ばれる経験則を希望を込めて提唱したようだ。ムーア氏は、この経験則が、その後、半世紀にわたり、産業界を支配しようとは思いもよらなかったと、後年、繰り返し語っているが、そんな同氏も今は、ムーアの法則に従って猛スピードで進歩を続ける半導体分野から離れて、別荘で過去を振り返りながら、静かに余生を送っているとのことである。

図4 Intelを築いた3人が一緒に写っている創業直後の数少ない貴重な写真。右からゴードン・ムーア氏、ロバート・ノイス氏、アンディ・グローブ氏 (出所:Intel)