企業間チェーン全体をカバーする"ソーシャル"なネットワーク
――そもそもこうしたサービスをなぜ立ち上げようと思ったのでしょうか?
企業間の"つながり"が、個人間の"つながり"と比べてあまりにも旧態依然としていることに疑問を抱いたことがきっかけです。いまや個人同士であれば、FacebookやTwitter、LinkdinなどのSNSでつながっているのは当たり前ですよね。一方、企業間のやり取りに目を向けると、まだあちこちで紙やFAX、メールが使われているわけです。ならばわれわれがそこにSNSの要素を取り込んで、請求書やお金の流れだけでなく、物流までも含めた企業間チェーン全体をつなげてしまおうと考えました。2010年にデンマークのコペンハーゲンでトレードシフトを設立し、その後アメリカ・サンフランシスコに本社を移して、現在はアメリカ、イギリス、日本、中国に拠点を構えてワールドワイドにビジネスを展開しています。
――企業間チェーン全体をカバーするとなると相当な種類の機能が必要になるのではないですか?
もちろんそうなります。ですから、トレードシフトのプラットフォームは基本的にアプリケーションプラットフォームとなっていて、われわれだけでなくさまざまなパートナーがアプリケーションを開発しています。現在App Storeに登録されているアプリケーションは約80種類に及びます。
例えば物流のアプリを起動すると、コンテナのトラッキングから船積みの処理までがすべてアプリ上でできるようになっています。個人にとってFacebookやTwitterがなくてはならない存在であるのと同じように、トレードシフトもまた、企業間取引に欠かせない存在となっていくことを目指しています。
日本市場での戦略は?
――グローバルにビジネスを展開しているなかで、いま特に注力している地域はどこですか?
欧州や北米地域ではかなりわれわれのサービスが浸透していると自負していますが、近いうちに急成長を見込んでいるのが中国でのビジネスです。この3月には、中国における税務関連サービスプロバイダの百望(Baiwang)と合弁会社の設立を含む戦略的提携を結びました。これにより今後、中国政府への請求や中国の企業間取引などでトレードシフトが利用されていく予定です。将来的に百望では、税務サービス、資金調達、企業信用さらにはその他の付加価値サービスを、トレードシフトプラットフォーム上の追加機能として開発していくことを計画しています。
――日本市場についてはどうでしょうか?
日本は非常に興味深い市場だと見ています。世界で3番目の経済規模を持っていてグローバルで活躍する企業が数多く存在する一方で、なかなか変革が進まずに苦しんでいる企業もあります。そこにわれわれがお手伝いできるのではないかと考えています。現在のサプライチェーンはアジャイルでないといけませんが、アジャイルにするためにはアジャイルな取引をきちんとサポートできるプラットフォームの存在が不可欠です。また、これまでの取引先を維持しつつも、新たな取引先を開拓しなければ、競争の激しい市場で将来埋もれてしまう恐れがあります。それらをカバーできるのが、われわれの企業間ネットワークプラットフォームなのです。
既にプラットフォーム自体は日本向けのローカライズを完了しており、今年はプラットフォーム上のアプリケーションについてもどんどんローカライズしていきます。また、シティバンクやペイパルなど海外のFinTech企業とのコラボレーションが進んでいますが、日本のFinTech企業との連携にも大いに期待しています。いま日本のメガバンクやカード会社などとトレードシフト上のFinTechサービスについて話を進めているところですが、FinTechベンチャーを含めて興味があればどんどん声をかけていただきたいですね。
また、日本でニーズが高いことから購買アプリ「Tradeshift Buy」を開発したのですが、このアプリをこの夏から秋にかけて拡大していく予定です。
――最後に、今後のビジネスの展望についてお聞かせください。
いま大企業にも変革や業務効率化が問われるようになっていて、そうしたニーズがわれわれのビジネスを拡大しています。大企業であっても、グローバルに競争相手が存在するようになり、また新たな競争相手となるベンチャーも続々と登場してくるようになりました。しかしそうした状況はすべての企業にとって決して逆風なのではなく、立ち回り方次第でむしろ大きなチャンスにもなるはずです。
「トレードシフトでビジネスをデモクラタイズ(民主化)」というのがわれわれが掲げるメッセージです。大企業であっても中小企業であっても、等しく透明性を保ちながら同じプラットフォーム上で平等にビジネスができるようにしていくことこそ、トレードシフトの目指す世界なのです。