ステークホルダーへの情報発信が重要
健康経営度調査における個別の調査項目に着目すると、従業員の健康保持・増進の推進を、企業理念や企業方針に明文化している企業の割合が、前回の53.3%から65.1%へと11.8ポイントも増加している。また、取り組みの責任者の役職では、経営トップとする企業が14.8%、担当役員が49%で、役員層の割合が63.8%と前回の53.2%から10.6ポイント上昇している。これらの結果から、幅広い企業で経営層の関与が進むとともに、健康経営の理念が普及しつつあることがうかがえる。
また今回の選定では、健康経営に関するそれぞれの企業の情報発信状況に対する評価ウェイトが高められている。現状、各社での健康経営に関する取り組み内容はあまり可視化されておらず、投資家や従業員などが把握しづらい状況にある。だが投資家をはじめとしたステークホルダーが健康経営を適切に評価するためには、比較可能な情報を企業が発信することが重要であるため、積極的に情報発信している企業をより評価することにしたのだ。
「ただし情報発信と言っても、どんな媒体でどのように情報を出していけばいいのかわからないという企業も多いと思われますので、情報発信のあり方に関するガイドラインを近く公表する予定です」(丸山氏)
さらに今回の調査では、従業員の健康に関する課題やそれに対する対策について回答してもらうようにした。自社の課題をしっかりと認識し、適切なアプローチが行えているかどうかを重視するためだ。そして対策が十分でない企業には、どこができていないか、どのような対策が必要かなど、個別のフィードバックも提供している。
「フィードバック自体は前回も行っていて企業から好評でしたので、より具体的なアドバイスや情報提供ができるようにしました」と丸山氏は話す。
今後は健康経営による数値的な効果の算出を
経済産業省が現状の課題としているのが、健康経営度調査の回答率の向上である。回答を寄せる企業は従業員の健康に対する意識が比較的高い企業であることが想像されるため、健康経営の裾野を拡大していくには、より幅広い企業から情報を提供してもらうことが欠かせないのである。
「われわれとしては、回答いただいた時点で健康経営にかなり理解のある企業だと認識しています。今後の回答率を高めるには、もっと回答しやすい仕組みなども考えていく必要があるでしょう。また、健康保険組合などの保険者に問い合わせなければ得られないような情報もありますので、各加入保険者との連携方法なども引き続き検討していく方針です」(丸山氏)
そして健康経営の価値について考えたときに最も難しいのが、経営に対するインパクトを数値などの具体的な指標で表すことである。ここがしっかりと可視化できなければ、経営者も健康経営に対してどれくらい経営資本を投入すればいいのか判断できないはずだ。
「この点に関しては、今後も学術機関などと連携して調査研究を続けていきながら、例えば、喫煙習慣がこれだけ生産性に影響し、従業員が健康を取り戻したことで業績がこれだけ伸びたなど、説得力のある関係性を示せるようにしていきたいですね。それともう1つ、各企業の“がんばり”をどう評価していくかも課題です。企業は、それぞれ異なる条件下で多種多様な取り組みを行っていますので、それらを適切に評価することの難しさが浮き彫りとなりました。そこで、どのような基準で評価しているのか公開していくことで、回答企業自身がどこをどう取り組めば改善につながるのか、理解しやすくする必要があると感じています。さらに、そうした改善を支援するようなビジネスの創出も期待できるのではないでしょうか」と丸山氏は語った。