ここからは、キャンサースキャンのイノベーションディレクターで医学博士の石川善樹氏と、元陸上競技選手で400mハードル日本記録保持者である為末大氏を交えてのトークセッションへと移行した。
「緊急討論:ZONEの創り方」と題されたトークでは、まず石川氏が「超集中状態(ゾーン)」というものを、どのように研究者が捉えてきたのかという歴史を説明した。1950年代、スポーツ選手は「長い時間、一生懸命頑張ってたくさん競争すれば強くなるはず」という概念で鍛えられてきたが、これでは怪我人や"燃え尽きる人"が続出。そこで旧ソ連は、「スポーツ心理学」という学問を始めたという。
一流のテニスプレイヤーが試合で実際にプレイをしているのは35%で、残りの65%はラケットを持ち替えたり利き手の緊張をほぐしたり、あるいは体を回転させてコートの端まで歩いたり、ラケットの糸を整えたりする、リカバリーのルーティンを行っているという。これはスポーツ選手に限らず、一般人でも仕事で疲れたり飽きたりした時に、どんなリカバリーのルーティンを持っているかが、「超集中状態」に入りやすいか、そうでないかの違いとして現れるのではないかと述べた。
つまり、"超集中状態"に入りやすい人は、「リカバリーが上手い」ということだ。石川氏によれば、リカバリーには不調の状態から普通の状態に戻す「マインドフルネス」(食事や睡眠、姿勢、攻めの休暇=休日をアクティブに過ごす)と、普通の状態から絶好調にする「ゾーン/フロー」の2種類があるという。
ここからは、今回のトークセッションのテーマである「超集中状態」への入り方についての話題となった。石川氏は、超集中状態に入るためのステップとして「強いストレスを感じる」、「一気にリカバリーする」、「適切な目標行動を設定する」、「行動からフィードバックする」という4点を挙げた。超集中状態の研究者たちは、「フィードバックが最も重要だ」と口を揃えるという。集中のフィードバックを実現するデバイスはこれまでなかったが、今回リリースされたJINS MEMEの新アプリは、まさに"集中"をフィードバックしてくれるものだと語った。
為末氏は、内容がまったく異なる会議を交互に行うとパフォーマンスの低下を感じるそうだ。陸上競技の場合は「記録」によって集中の「フィードバック」が明確になるが、現役を引退し一般社会ではそれがわかりづらくなったという。そこで、会議などでは自分の状態を常にモニターし、目標行動を設定し、自らがフィードバックを行っていると語った。また、井上氏はJINS MEMEを今まで使用してきて、「この曲を聴いていると集中力が上がった」、「会社にいるよりも喫茶店で仕事をしたほうが実は集中できる」といった話をよく聞くと明かし、「フィードバックによって集中を高めることができる」と述べた。最後に石川氏は、「人間は1日に4時間ほどしか"真剣な集中"ができないと言われている」とした上で、クリエイティブさが求められる現代においては、その4時間以外のはリカバリーの時間と割り切ったほうがいいと考えていると語った。
なお、最後に井上氏は、JINS MEMEの医療分野における取り組みを紹介。同デバイスで測定した集中度は疫学データとして、将来的に認知症の発症との関連性や早期診断などの先制医療に役立てたいと語る。その第一歩として、大量のデータを自然に取得できるという強みを活かし、ヘルスケア領域の実験プラットフォーム「JINS MEME MEDICAL LAB.」を今年7月頃に起ち上げる予定であることを明かした。第一弾のテーマとして、心の領域では「ストレスチェック」、身体の領域では「ランニング障害の予防」が予定されているという。
先行リリースされたフィットネス関連アプリから始まり、今回リリースされたアプリによる集中力の向上、さらには医療分野への進出など、JINS MEMEは今後もさまざまな分野においての応用が期待されるウエアラブルデバイスとなりそうだ。