内藤氏は「ビッグデータ活用」という言い方をしない。「データ活用」と呼ぶのだ。それはデータの量がビッグかスモールかという部分にこだわる意味がないからだという。

「データの量がビッグかスモールかということと、構造化データか非構造化データかということでデータを分けた場合、ほとんどのデータ活用の舞台はスモールのところにあります。CRMの延長で行うマーケティングや営業支援、サプライチェーンの最適化や在庫の最適化といったものはスモールの部分です。非構造化データの中でもコールセンターのログ分析やVOC分析はずっと前から行われてきました」と内藤氏。

すでにユーザー部門は売上向上等を目指して、社内にあるさまざまなデータを活用してきた。SNSをはじめとする各種データが登場しても、実際に活用されるデータは社内に存在するスモールなデータの方が多いのだという。

また、さまざまな取り組みが考えられる中で、目的に向けて動き出す時に企業が選択するのは、全社的なシステムではなく一部の部門から始めるスモールスタートのスタイルだ。

「最初はできるだけインパクトがあって、小さな労力で成果が出せそうなものを選びます。システムの全体像を描いた上で、最初にやるべきことに必要な最低限のシステムはこれで、将来的にはこう拡張する、という形でユーザー部門が考えてから動きだせば、投資がきちんと回収できるシステムになります」と内藤氏は語る。

内藤氏からは、小さな取り組みで大きな成果が得られる例として、Webの最適化があげられた。ABテストを行って、より使いやすいサイトを作ることで、ある航空会社は億単位での効果を出したという。大手金融企業でも操作ボタンを押しやすいレイアウトを模索することで、わずか数カ月で月あたり1,000万円の利益を押し上げるサイトを作ることができたという。

「この大手金融企業の場合、月あたり約300万円のシステム利用料とコンサルフィーのコストで、月1000万円の利益を押し上げる効果を出していますから、差引き月あたり700万円のプラスです。非常に費用対効果が大きく、明確です。こうした、ビッグデータ活用ではないけれども成果がわかりやすく、クイックに効果が出るものを企業は欲しています」と内藤氏は企業のデータ活用のニーズを語った。

データ活用を成功させる3つのポイント

さまざまな失敗事例、成功事例を見て来た立場として、内藤氏はデータ活用の成功に向けて必要な3つのポイントを挙げた。

「1つは試行錯誤が前提でシステムを構築するということです。しっかり要件定義をしたつもりでも、ユーザーの要件は時間とともに変わっていくものです。それを前提とした組織やシステムを作らないといけません。内製かアウトソースか、ビジネス側で引っ張るのか、IT側で引っ張るのか、何が正しいという答えがないのです。その時々で変えていかなければならないのです」と、最初から正解を見つけようとすることや、柔軟性のないシステムを構築することの危険性を指摘した。

2つ目として挙げられたのは、データ活用チームで採用すべき人材だ。同氏はユーザー部門が主導する組織であることが重要であると強調した上で、仮にIT部門を中心としたチームであってもユーザー部門に大きな影響力を持つ人物を引き入れることが大切だという。

「ユーザーはデータ活用というアクティビティからいうとスポンサーです。その人たちから仕事をもらって成果を出し、社内でアピールをして、どんどんスポンサーを増やして行くことで全社データ経営ということが初めて成り立ちます。現場から馬鹿にされるようなチームでは、仕事は貰えません。声が大きく、ユーザー部門に強力なガバナンスを利かせられる、ユーザー側の体験をしている人が必要です。そうした人をデータ活用チームに招き入れることで、成功の確率は大きく上がっていきます」と語る。

この2点を守った上で、システムはスモールスタートのスタイルを採ることが3つ目の成功の鍵になるという。

「IT部門は費用対効果を求められやすい部門です。大きな投資をいきなり行っておいて、ビジネス成果がなかなか出てこないという状況が露呈してしまうと、社内で失敗プロジェクトと位置付けられてしまいます。システム投資は、最初は必要最低限。スモールスタートで始め、小さな成果を積み上げて、理解者とスポンサーを増やし、チームも役割もシステムも徐々拡張していくことが、データ活用推進の王道だと感じています」と内藤氏は語った。