こうして世界中に建設されたレーザー干渉計は、ライバルとして、また共同観測者同士として観測を続けたが、これまでに重力波の検出は成し遂げられていない。

ただ、これはある程度予測済みのことではあった。初期のLIGOやVIRGOなどがもっていた検出能力(感度)は低く、重力波の検出こそできるものの、実際に検出できる確率は150年に1回程度と見られていたためである。どちらかというと、重力波を捉えるためのレーザー干渉計の技術および観測手法を確立すること、そして研究者のコミュニティを育成することが最大の目的だったといえよう。

そして現在、より感度を上げた次世代のレーザー干渉計の構築が進められている。

次世代のレーザー干渉計

まず米国のLIGOは、2010年にいったん観測を停止し、改良工事に入った。そして当初から約10倍も検出能力が高くなった「アドヴァンストLIGO」に生まれ変わり、昨年9月から運用が始まっている。

伊仏のVIRGOも同様に、2011年に観測を停止し、検出能力を10倍も高くする「アドヴァンストVIRGO」への改良が進んでいる。

英独のGEO 600もまた、2009年から「GEO-HF」という改良が施され、2014年に完了。アドヴァンストLIGOの運用開始時にも、同時観測に参加している。

そして日本では、TAMA300の成果を受けて新しいレーザー干渉計を建設することが決定さて、ニュートリノの観測でも知られる岐阜県飛騨市の神岡鉱山跡に「KAGRA」(かぐら)が建設されている。すでに重力波の観測に必要な最低限の工事は終わっており、2015年度中に重力波の試験観測を始め、また施設全体が完成する2017年度からは本格観測を開始する予定となっている。

KAGRAの想像図 (C) 東京大学

これまでのレーザー干渉計が重力波が検出できる確率は150年に1回程度だったが、アドヴァンストLIGOやアドヴァンストVIRGO、KAGRAなどがもつ性能によって、確率は1年に数回程度にもなる。

条件さえ良ければ、早ければ今年中にも重力波が見つかることになるかもしれない。もっとも、どこかのレーザー干渉計で検出されたとしても、それが本当に重力波なのかどうか、時間をかけてじっくりと検証を重ね尽くす体制ができているため、私たちが知ることができるのは、発見から半年以上は後になるだろう。

また、地上ではなく、宇宙にレーザー干渉計を置くという壮大な計画も始まっている。一口に重力波といっても、その周波数でさまざまな種類があり、たとえば中性子連星合体や超新星爆発から出るものは高い周波数で、ブラックホール連星合体や背景重力波は低い周波数をもっている。しかし、地上のレーザー干渉計では、地面の振動があるため、基本的に高い周波数のものしか見られない。また、レーザー光が飛ぶ距離も長くする必要があるが、前述のように地球は丸いため、地上では十分な長さが確保できない。

そこで振動する地面も、距離の制約も無い間、つまり宇宙空間にレーザー干渉計を置く必要がある。

現在、欧州を中心に「eLISA」という提案が行われている。これは3基の衛星を100万kmずつ離して飛行させ、その間をレーザー光が飛び、重力波による衛星同士の距離の変化を調べるという仕組みのレーザー干渉計である。

ただ、地上と違い宇宙には固定するものがないため、せっかく重力波で衛星間の距離が変わっても、衛星そのものが揺れていたら無意味になってしまう。衛星間の距離をどのように保つかという制御技術が、実現に向けた大きな課題となる。

そこで欧州はまず、2015年12月3日に「LISAパスファインダー」という衛星を打ち上げ、eLISAの実現に必要な技術の試験を行っている。無事に成果が出れば、そして何より予算がつけば、2034年にもeLISAが打ち上げられ、低周波数帯の重力波の観測に挑むことになる。

LISAパスファインダー (C) ESA

2034年ごろに打ち上げが予定されているeLISA (C)ESA

また日本でも、同じようにレーザー干渉計を宇宙に打ち上げる「DECIGO」(ディサイゴ)という計画がある。こちらもまずは技術実証機「DECIGOパスファインダー」を打ち上げることを当面の目標としており、計画が認められて予算がつき、開発も順調に進めば、数年以内に打ち上げられる予定となっている。

重力波天文学の誕生へ

アインシュタインが1918年に重力波を提言してからおよそ100年、ようやく私たちは、その存在に答えを出そうとしている。

もちろん、重力波は検出しただけ、見つけただけでは終わりではない(それだけでも大ニュースにはなるけれど)。そこから、重力波がどういう性質をもつものなのか、これまでの予測は当たっているのかといったことを検証するため、観測を続けていかなければならない。

こうした、重力波で宇宙を見る新しい研究分野のことを、研究者らは「重力波天文学」と呼んでいる。古来、人類は肉眼で見える光で宇宙を見るしかなかったが、やがて電波や赤外線、紫外線、X線、ガンマ線、そしてニュートリノで宇宙が見られるようになると、肉眼では見えなかった新しい宇宙の姿が見えるようになった。そこに新たに、重力波が加わろうとしているのである。

重力波を使い、ブラックホールや中性子星、超新星爆発など、さまざまな天体や宇宙現象に目を向けたり、さらに光学望遠鏡や電波望遠鏡、ガンマ線望遠鏡などほかの種類の観測機器などとも組み合わせたりして観測を行うことで、これまで知られていた宇宙の現象に、また別の姿が見られたり、あるいは想像を超えるまったく新しい現象が見つかったりするかもしれない。

アインシュタイン先生の出した宿題はまもなく解き終わり、そして今、真っ白なノートに新しい宇宙の姿を描いていく時代が訪れつつある。

参考

・真貝寿明. ブラックホール・膨張宇宙・重力波 一般相対性理論の100年と展開. 光文社, 2015, 340p.
・特集 重力波天文学が拓く宇宙 - 国立天文台
 http://www.nao.ac.jp/contents/naoj-news/data/nao_news_0247.pdf
・重力波とは? « KAGRA 大型低温重力波望遠鏡
 http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/plan/aboutu-gw
・Physics - Focus: A Fleeting Detection of Gravitational Waves
 http://physics.aps.org/story/v16/st19
・LIGO Scientific Collaboration News
 http://labcit.ligo.caltech.edu/LIGO_web/0312news/0312one.html#Article_1
・Advanced LIGO
 https://www.advancedligo.mit.edu/
・Virgo – website
 http://www.ego-gw.it/virgodescription/pag_4.html
・ESA Science & Technology: LISA Pathfinder
 http://sci.esa.int/lisa-pathfinder/
・http://tamago.mtk.nao.ac.jp/decigo/wdecigo.html