――話は少し逸れるのですが、真琴と遙の間にあったわだかまりが解けるシーンについて、小説とはかなり異なる描き方をされていました。原作からエピソードを削るのではなく、異なる演出に決定された経緯をお伺いしたいです。
実は、シナリオ制作の際もこのシーンについては難航しまして。最初に作った時から、4人が仲間になっていく過程というのをどのように描こうかということを悩んでいました。 遙と真琴の和解のシーンについては、シナリオ制作の最後の方まで何度も相談を重ねて、最後は僕と脚本の西岡が膝詰めでああでもない、こうでもないと議論をした結果、ある時にふっと、現在の演出が“降ってきた”んです。
これだったらふたりが元に戻れるのではというアイデアに、迷走の果てにようやくたどり着いたというか。悩んだ挙げ句のことでしたが、アイデアに降りてきていただいたというところですね。
――当初から、原作準拠ではなく新たな描き方を模索されていたのでしょうか?
そうですね。先ほど申し上げたことと重なるのですが、僕が「さわやかな映画」を作りたいと考えていたこともあって、原作とは違う描き方を探していました。
もちろん、原作の和解シーンも素晴らしい表現がされていますが、先ほども申し上げた「さわやかな映画」を作りたいという思いが変更の理由です。原作のままの場面を入れ込むことで、1本の映画として「さわやか」という印象を持ち続けるのは難しいかもしれないと考えました。ただし、小説の表現を否定するということではなくて、中学生の持つ無邪気さをもって、もう少し違う解決方法がとれないかなと考えた結果、今のものになっています。
――武本監督は、テレビシリーズの内海紘子監督からバトンタッチする形で『映画 ハイ☆スピード!の監督を務めておられますが、『Free!』の世界観を大切に、ということをコメントや公式インタビューでたびたび語られています。もしTVシリーズの内海監督から武本監督にバトンを託されたことなどあれば、エピソードをお聞かせください。
僕はTVシリーズ『Free!』で、1話だけ演出などで制作に参加した回があり、そこではもちろん内海監督とやりとりしました。ですが、『映画 ハイ☆スピード!』に関しては、制作にあたって話を聞いたこと等は特にないですね。本作も、いつものように全社を挙げて制作を進めました。
――最後に、『Free!』から同シリーズを追いかけているファン、そして映画化に際して同作に注目したファンそれぞれにコメントをいただけますでしょうか。
『Free!』『Free! ES』を受け継いで、おなじみの顔が登場する面白い作品を作ろうということで、スタッフ・キャスト一丸となって作りました。もちろん、鑑賞された印象は見た方おひとりずつにゆだねるものですが、少なくとも制作現場では皆さんが愛し、応援してくださっている『Free!』そのままの映画を作ろうと一堂奮闘しましたので、まずはご覧いただけると嬉しいです。
そして、TVシリーズを引き継いだ形で作ってはいますが、新たにこの劇場版から触れていただく方にも、一本の映画としてきちんと見られるような形にしております。映画としてのまとまりはありつつ、TVシリーズを見ていただくことで、さらに広がりを感じていただけるようになっていると思います。もし劇場版にご興味を持っていただけたら、ぜひ映画からTVシリーズへと手を伸ばしていただけると幸いです。
『映画 ハイ☆スピード!―Free! Starting Days―』
12月5日 全国ロードショー
(c)2015 おおじこうじ・京都アニメーション/ハイスピード製作委員会
配給:松竹