――続いて、メインキャラクターの中で、TVシリーズ『Free!』に登場しなかった人物についてお伺いします。旭はとてもアクティブな一方で悩みを抱えているなど、ある意味一番中学生らしい面を持つキャラクターだと感じたのですが、彼を描く上で留意した点などあれば教えていただきたいです。
旭は『Free!』には出てこない小説「ハイスピード!」のキャラクターなので、当然ながら小説での描写がベースになっています。ですが、TVシリーズ『Free!』の中の誰かに被ったような性格ですと、あえて新たに旭を登場させる意味がなくなってしまいます。「Free!の●●っぽいキャラ」ではなくて、既存のキャラクターとは違った個性を持っていると思ってもらえるように注意しました。
『Free!』では、物事の原動力というか、ブレイクスルーをもたらすのは渚の役割でした。旭は、渚とはまた違ったアプローチでブレイクスルーが行えるキャラクターです。また、ここは多分に僕の思いというのが強く入ってしまっている部分かもしれないのですが、「年相応の幼さ」やかわいらしさ、男の子らしさを持った子であってほしいと思っています。結果として、ある方から、「『Free!』の中ではこういうタイプのキャラクターがいなかった。少年漫画の男の子に近い印象がある」と言っていただけたので、それはとても嬉しかったです。
――確かに、旭の言動やしぐさはとても年相応であると感じました。
また、年相応に幼いながらも、年齢を重ねていけば、男の子から男性へと成長していけそうな予感を見せてくれたキャラクターでもありますね。
『Free!』の登場キャラクターたちは、すでに完成しているというか、内面がある程度確立していて、年を重ねても軸は大きくぶれないだろうと思わせるキャラクターが多いのですが、そういう中では異色の存在かもしれません。未発達な少年が成長し、変化していく予感というのは、『Free!』ではあまり色濃く押し出されていなかった要素かと思います。
――また、もうひとりの同作から登場するメインキャラ・郁弥ですが、原作小説ではすこし斜に構えた性格です。脚本の西岡麻衣子さんの公式インタビューによれば、当初監督のイメージでは「無邪気なキャラクターにしてみては」と提案されたと読みました。最終的には原作に近づけたキャラになったとのことですが、当初案の狙いについて教えていただきたいです。
僕が始めに小説「ハイスピード!」に抱いたイメージは、凸凹で、がたがたではありつつ、一緒にいる4人というものでした。仲は良くないけれど、衝突しながらお互いを理解してチームになるという印象だったんです。
4人が一緒に行動するという点から見ると、一番難しかったのは郁弥の存在です。郁弥は水泳部のキャプテンを務めている兄・夏也との確執を抱えていて、ひねくれた性格でもあったことから、他の3人と行動を共にし、物語を進めていくイメージがしづらいキャラクターかもしれない、と悩みました。
そこでシナリオ制作が難航したため、郁弥の性格を少し変更してはどうかと持ちかけたことに関して、西岡さんが公式サイトのインタビューで言及しているんですね。
――その提案に対して、西岡さんはどのように反応されましたか?
西岡さんをはじめ、女性スタッフは、「郁弥の性格は絶対に小説のまま、変えないほうがいい」と言いましたね。満場一致でした。
――監督としては、その意見を受け入れた、ということでしょうか。
はい。とはいえ、シナリオを固めなくてはどうにもならないので、「いいシナリオに書きあげてください」、と発破をかけました(笑)性格をそのままにするというこだわりが元で、郁弥が他の3人と行動する必然性が薄れてしまったらいけませんから。
彼らひとりひとりが何を考え、何を大切にしているかという部分を突き詰め、それならばどんなことを言われたら許せないと感じるか……など、そうしてキャラクターを掘り下げた上でやりとりを作ってほしい、と念を押しました。キャラクターが魂で喋るからこそ、通じるものがある。だから、徹底的に嘘をつかずにやってほしいと。
結果として、郁也はあの性格のままでよかったと思っていますし、シナリオもいい形になったと考えています。あの時お話の都合で性格をいじってしまっていたら、きっと鑑賞してくださる皆さんの心に響くものにはならなかったと思います。
続くインタビュー後編では、作中の演出や作画にかけた想い、そしてストーリーの要となる場面、映画全体のテーマなどについて語られる。乞うご期待。
『映画 ハイ☆スピード!―Free! Starting Days―』
12月5日 全国ロードショー
(c)2015 おおじこうじ・京都アニメーション/ハイスピード製作委員会
配給:松竹