コスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」などを運営するアイスタイルはこのたび、グループ全体の事業戦略発表イベント「アイスタイルカンファレンス」を開催した。本稿では、代表取締役社長の吉松徹郎氏が行ったプレゼンテーションをレポートする。
1999年に産声をあげたアイスタイルと@cosme。今年で16年目を迎える同サイトは、月間UU1,200万人、総口コミ件数1,200万件、総商品数2万9,000ブランド・26万商品へと成長を遂げている。吉松氏はこれまでを振り返り、「ユーザーの声をとりまとめて新たな世界を築いていきたいと思い、15年前にスタートした小さな取り組みが、やがてユーザーの商品購買行動に寄与するようになった。それに伴い弊社でも、ネットからリアルへのさまざまな挑戦をいち早く行ってきた」と話す。
たとえば、今や多くの女性に注目され、化粧品売上にも多大なインパクトを及ぼす「ベストコスメ大賞」がスタートしたのは2002年のこと。翌年にはクチコミランキングを書籍化した「本当に良かったコスメ487」が発売され、人気コスメムック本としての地位を確立した。
ベストコスメ大賞と同年の2002年にはEC事業を始め、5年後の2007年にはリアル店舗「@cosme store」1号店をオープンし、2015年現在では日本全国に7店舗を展開するまでになった。グループ会社も11社まで増え、PR事業や投資事業、アプリ開発、人材支援事業のほか、グローバル化に伴う海外輸出事業や中国輸出事業、中国メディアなど、各分野に通じた会社がそろう。
競争激化・複雑化・細分化……変わり続けるビューティー市場
順調に成長し続けてきた同社は、市場、そして生活者の変化と共に、15年の道のりを着実に歩んできた。この間、そしてこれからの市場環境の変化を、吉松氏はこう語る。
「矢野経済研究所の『化粧品市場に関する調査結果 2014』によると、国内化粧品総市場規模は過去20年でほとんど変化していません。一方で、プレーヤー間の競争は激化し、商品・サービスは増えている。@cosmeに登録されたカテゴリだけでも300を超え、昔の勝ちパターンは通用しなくなりました。流通の仕方も大きく変化しています。旧来の百貨店や化粧品専門店だけではなく、ドラッグストアやコンビニ、ECなど、新たな販売網が台頭し、ビューティー市場はこの先も複雑化し続けることが予想されます」(吉松氏)
商品の流通経路だけではなく、ネットやスマホが普及し、美容情報の流通経路も複雑化・細分化する流れにある。それらの影響を受け、@cosmeもこれまでに10以上のサービスを運営・提供してきた。しかし、吉松氏は「今一度ユーザー視点に立ち返り、利便性を考えたとき、この複雑化したサービスはもっとシンプルになるのでは?」と考えるようになったという。
複数サービスを一プラットフォームに統合 - 使いやすく、つながり合える仕組みに
その考えを元に、この日2つの大きなトピックが発表された。1つ目は「ビューティープラットフォーム構想」で、主に3つの改革が行われる。1点目はサービスの統一だ。
「今でも一部サービスのIDは統合されていますが、これから行うのはアイスタイルが保有する情報を単一のデータベースにまとめる作業。ドメインもcosme.netの下に統一し、将来的にはアプリも@cosme一つに統合したいと考えています」(吉松氏)
クチコミデータや商品登録データ、ランキングデータ、会員データ、売上データ、EC会員データなど、データベースやID、ポイントすべてを統合する計画が進められている。
2点目は独自情報のコンテンツ化だ。同社が保有する膨大なクチコミデータは、切り口やデータの組み合わせ方を工夫することで、オリジナリティのあるコンテンツへと変貌する。そんな土壌を同社はすでに持っているのだ。
3点目はBeauty ID(以下、BID / 同社の造語)の導入だ。美容事業者(ブランド・サロン)や専門家、個人事業主向けのBID(BtoB事業)を導入し、美容のプロたちが積極的に情報発信できる環境を構築する。2015年11月時点でブランドとサロン向けに6000IDが発行され、2018年には6万IDを目標に掲げ、収益の柱を増やす。
新たな概念ゆえ、ピンとこない人のために少し噛み砕いて説明したい。これまで@cosmeでは一般ユーザーが一般ユーザーによる化粧品の口コミを見られるのみだったが、BID登場後はそれに加え、BID保有者の"プロ"たちが提供する美容商品・サービスに関する情報を見られるようになり、彼らとWeb上で交流できるようにもなる。
たとえば「美白」と検索すると同キーワードを軸に、その情報を必要とする一般ユーザー、提供するBID保有者がつながり合う仕組みだ。
@cosmeのノウハウを海外へ輸出したい
2つ目のトピックは「グローバル展開」である。「ジェトロセンサー」(2014年2月号)によると、美容・パーソナルケア製品の市場規模は、世界市場で見ると10年で2倍以上に成長している。日本国内で発売された化粧品も、アジア地域を中心に輸出額は年々上がっている。
中国市場での伸びも顕著だ。同社は2012年9月にistyle Chinaを設立し、2014年12月には越境EC事業に新規参入した。2015年3月にはTmall(天猫)で@cosme官方海外旗艦店をグランドオープン。今年10月には中国販売パートナー数が11チャネルにまで増えた。
海外からのアクセスPV/UUはアメリカでは各111%/184%(いずれも前年比)、韓国では95%/50%など、大幅に伸びている。それを受けて、アメリカと韓国、中国、台湾向けのグローバルサイトもオープンした。
「海外売上比率も上がっています。2016年6月期 第1四半期 セグメント別売上では、海外(小売)の売上が1割を占め、EC(小売 / 日本国内)の売上よりも多い結果になっています」(吉松氏)
そんな中、同社が構想するのは、@cosmeが生み出すビューティーコンテンツとビジネスモデルを海外輸出・展開することだ。実際、フィリピンで10月に「クールジャパンショップ」をオープンし、化粧品卸事業をスタートさせた。
「2020年までに海外事業で、現在の3倍となる売上30億円を目指す」――吉松氏は今後のグローバル展開目標についてこう宣言した。
時代の流れを的確に先読みし、果敢に大きな挑戦をし続けるアイスタイル。何もかも他にさきがけて、いち早く着手したことで、成功を掴んできた。新たな2つの取り組みもどのようにスケールしていくのか、今後の展開に注目したい。