続いて、ヤフーの宮坂学氏とアスクルの岩田彰一郎氏、ソフトバンクの栗坂達郎氏が、それぞれ自社のマーケティング活動の方針などについてプレゼンテーションした。
宮坂氏は、来年20周年を迎える「Yahoo!JAPAN」が変化の激しい業界内で生き残っていくために重視している文化として、「脱皮しない蛇は死ぬ」という哲学者ニーチェの言葉を紹介し、同社が取り組んでいるさまざまな事業の再定義(Born Again)について紹介。「企業が脱皮するのはしんどい。しかし、今後企業が30年、100年存続していくためには、勇気をもって脱皮するというサイクルを繰り返していく必要がある」と述べた。
その上で、宮坂氏は、PC向けのネットサービスが中心だった事業をモバイルインターネット中心の事業へと転換した点や、ブラウザによるネット利用からスマホアプリによるネット利用を中心したサービスの推進、eコマースビジネスにおける出店費用無償化といった改革を紹介。そして、次なる挑戦として「ユーザーを知る」という課題を挙げ、Yahoo!JAPANのさまざまなサービスが生み出すビッグデータを活用し、ユーザーの指向性や好みを知るべきだという認識を示した。
「インターネットの時代においては顧客の姿を見ることはできません。ログデータという形で顧客の"影"だけを見ることになります。そうしたモバイルの時代、IoTの時代において、データを活用して顧客を知るという知覚能力を持てるかどうかは非常に重要です」(宮坂氏)
そして、宮坂氏はこの課題の解決を模索するひとつの事例として、「Yahoo!検索の利用者の中から子育て中の人を探し出すにはどうすべきか」というテーマで同社内のYahoo!JAPAN研究所が行ったビッグデータ解析研究「質拡張型学習」の事例を紹介した。
Yahoo!JAPAN研究所は、「データに"質"を加えると精度が上がる」という仮説のもと、答えを得るためにはまだ不確かさが残る検索ログに同社発行のクレジットカード「Yahoo!JAPANカード」の利用履歴というノイズがなくリアルな行動データを加えたところ、通常の検索クエリでは70.1%だった的中率が78.4%にまで上昇したのだという。ビッグデータにインテリジェンスを加えることにより、顧客をより正確に深く知ることができるというわけだ。
宮坂氏は、こうしたテクノロジーによるマーケティングを推進する意義について、「人類はビジネスが始まってから、"どうすれば顧客を知ることができるか"を考えてきた。ライバルよりも顧客を深く知ることができれば、それは大きなアドバンテージになる。だからマーケティングやテクノロジーを研究するのだが、その根本にあるのは、人間は他人を理解することができない生き物であるということ。だからこそ、私たちはデータや営業活動の経験を通じて顧客を知るという努力を続けなくてはいけない」と語り、今後もデータとインテリジェンスを活用したマーケティング活動を推進していくとした。
モバイルインターネットの時代がもたらした"激変"の波
続いてプレンテーションしたアスクルの岩田氏は、急成長している自社の日用品ECサービス「LOHACO」を紹介しながら、モバイルインターネットの時代が流通やECにもたらした変化について語った。
岩田氏は、ネット通販が生活者のライフスタイルにとって欠かせない存在である現代において重要な精神として、「作り手(メーカー)と生活者を良き隣人として深く理解し合い、繋げるための道具がECであり、ビッグデータである」と語り、ビッグデータを通じて生活者を深く理解することで生活者に寄り添うサービスを生み出し、"隣人社会"を生み出すことがECの責任であるという認識を示した。
しかし、ECを巡る状況は大きな変化を迎えている。岩田氏は、「産業、マーケティング、流通、コミュニケーション……あらゆるものがスマホに飲み込まれる時代。この時代の変化に乗り遅れれば、企業は死ぬ。進化しなければ生きていくことはできない」と語り、ECも例外なくこの時代の変化に対応する進化が求められていると提言した。
「これからの時代のECは、スマートフォンを活用して日用品を購入するという利用シーンが主流になります。マーケティングも大量生産、大量宣伝による製品・ブランド育成の時代から、生活者が欲しい商品を的確に提案していきながら生活者と一緒に商品を育てていく時代になっていくでしょう」(岩田氏)
そこでLOHACOが目指した新たなECは、自由でオープンなプラットフォームにおいて共創していくというモデルだ。その意図について、岩田氏は「これまでは、生活者とメーカーの間には流通というブラックボックスが存在し、これが生活者とメーカーの距離を遠ざけてきた。これからの時代は、生活者とメーカーを直接つなぎ、ECはその関係を支えるプラットフォームでなくてはならない。ECには、社会の変化に合わせた最適化が必要だ」と説明する。
岩田氏によると、LOHACOでは国内で事業を展開するメーカー54社が参加したマーケティングラボやECによる社会的課題を解決することを目的としたコンソーシアムを設立し、LOHACOが生み出したビッグデータをオープン化。ビッグデータを活用したサービスの拡充を参画企業と共同で研究すると共に、効果的なマーケティング環境をオープンイノベーションとして提供することによって、LOHACOが生活者の日常生活を支援するサービスとなることを目指すという。
Pepperが示唆する"感情を持つデジタルマーケティング"の可能性
なお、最後に登壇したソフトバンクの栗坂氏は、同社が開発したヒューマノイドロボット「Pepper」を紹介しながら、感情エンジンとクラウドAIによってデジタルツールに"感情"という新しい概念をもたらしたPepperが企業のマーケティング活動においてどのような可能性を秘めているかを紹介した。
栗坂氏は、「IoTを進化させると、世の中はどうなるのか」という命題に対する可能性のひとつとして、Pepperが大手雑貨販売店「LOFT」で化粧品を紹介するビューティーアドバイザーとして、また大手都市銀のみずほ銀行でコンシェルジュとして活躍している事例を紹介。感情を持つロポットという独自性が来訪客との新たな接点を生み出すとともに、クラウドと繋がりユーザーデータを蓄積するという技術的な特徴が様々なマーケティング効果を生み出していると、その効果を語った。
Pepperをこうした接客手法のひとつとして取り入れることの利点は、Pepperと相対した来訪客から直接得られる接客回数や時間、年代や性別、接客時の感情などのユーザーデータを可視化してマーケティング活動に活かすことができるという点だ。「将来的には、蓄積したデータから"どのような接客応対がベストか"を導き出すことができるようになる。例えば、毎日1000台のPepperからさまざまな成功事例と失敗事例がクラウドに蓄積されれば、価値のあるフィードバックを生み出すことができる」と栗坂氏は語る。
また、感情を持つロボットが接客するという話題性も、大きな効果を生み出すという。栗坂氏によると「Pepperを導入した店舗では、集客が250%アップし、みずほ銀行では約1.1億円のメディア露出効果を達成」するといった効果も見られた。
最後に栗坂氏は、Pepperによる未来のマーケティングがもたらす効果のまとめとして、話題性のあるPepperを活用することによる集客パフォーマンスの向上、接客から得られるデータ分析による店舗マーケティングの効率化、そのデータ分析によって来訪客に提供できる的確なレコメンドなどを挙げ、「蓄積されたデータの分析による的確なレコメンドがベストな顧客対応を生み出す。そして来訪客をハッピーにすることで、更なる集客が生まれるという好循環を作ることが可能になる」と締めくくった。