今、ドイツは国家を上げて、インダストリー4.0というプロジェクトを進めている。インダストリー4.0は「第4次産業革命」を起こす取り組みであり、狙いの1つが「スマートファクトリー(考える工場)」と言われている。
プライスウォーターハウスクーパースが先日開催した「『インダストリー4.0』最新動向から日本企業に求められる対応を読み解く」と題するメディア向けセミナーの内容から、ドイツと同様、モノづくりを得意としている日本企業が、インダストリー4.0に対し、どのような対応をすべきか探ってみたい。
バリューチェーンでインダストリー4.0の適用が進むドイツ
初めに、PwCドイツ インダストリー4.0 オペレーション・ITストラテジー部門 リードパートナーのステファン・シュラウフ氏が、ドイツにおけるインダストリー4.0の最新動向について説明した。
シュラウフ氏は、「『インダストリー4.0のコンセプトは現実のものか』とよく聞かれるが、ヨーロッパでは現実だ」と語った。インダストリー4.0を支える要素として、「スマートセンサー」「IoTによる接続」「クラウドコンピューティング」「ビッグデータ分析」「自律システム」「3Dプリンティング」が挙げられた。
「スマートセンサーはさまざまな機械と接続することで、データの共有を実現した。これにより、よりスマートな分野での利用や意思決定が可能になった。インダストリー4.0のコンセプトは"より賢い決定を実現すること"。インダストリー4.0は製造業に適用されるものと言われてきたが、ヨーロッパではバリューチェーンでも適用が始まっている」とシュラウフ氏。
シュラウフ氏はインダストリー4.0が「バリューチェーンの水平・垂直領域のデジタル化と統合」「製品とサービスのデジタル化」「ビジネスモデルのデジタル化」をもたらすと説明した。
バリューチェーンの水平統合、垂直統合とはどのようなことを意味するのか。まず、水平統合とは、これまではコンポーネント、サプライヤー、OEM/CEM、顧客が連鎖的につながっていたところ、インフォメーション・ハブを核としてつながり、複数のメディアにおいてクラウド上のデータをリアルタイムで共有できるようになることを意味する。一方、垂直統合とは、製品、センサー、機械、生産現場、計画/ERPがつながることを意味し、これにより、製品の製造フローにデータを投入できるようになるという。
製品やサービスのデジタル化は、新たなサービスの提供を可能にする。シュラウフ氏は、ドイツのポンプ・メーカーを例に挙げた。このメーカーはポンプにセンサーを付け、センサーから取得したデータを分析することで、故障を予測するソリューションなどを開発したという。
日本企業にも影響をもたらす「インダストリー4.0」
PRTMマネジメントコンサルタンツジャパンLLC 日本代表の尾崎正弘氏は、「インダストリー4.0は日本企業にとっても重要」と前置きしたうえで、日本企業のインダストリー4.0への対応状況と今後求められる対応について説明した。
プライスウォーターハウスクーパースPRTMマネジメントコンサルタンツジャパンLLC 日本代表 尾崎正弘氏 |
対応状況としては、多くの企業が組織的かつ積極的に情報収集を行い、研究を進めているという。また、「ICTを活用したFAの高度化」「インフラの稼働状況のモニタリングと運用の最適化」など、一部の企業は実際に取り組みを開始しているそうだ。
尾崎氏は今後、日本企業が求められるインダストリー4.0に関する対応としては、「本質を理解すること」「自社の立ち位置を把握するこ」「トレンドの中で戦略とロードマップを理解すること」を挙げた。
そして、日本企業がインダストリー4.0の領域で存在感を発揮するためのポイントは「現在のプラクティスのアップデート」「標準化の推進」「製品とサービスのデジタル化」だという。
尾崎氏は「企業には、生産管理や原価の仕組みなど、歴史をへて作りこまれてきた古いプロセスが存在する。インダストリー4.0に取り組むうえで、これらが足かせとなるという企業の声も聞かれるが、ドイツの企業は古いプロセスをアップデートしている。また、これまで各人が持つノウハウは競争力だったが、力を失った。これからは守るべきノウハウを明らかにして、社内の標準化を進めていかなければならない。さらに、工場を"スマート"に変えるだけでは不十分。スマートな工場で作ることができるよう、製品やサービスも変えていくことが必要になってくる」と説明した。