3種類のジッター
クロック・ジッターは大きく3種類に分類できます。いずれも、システムに存在している可能性があります。IDTは、「VersaClock 5」ファミリの製品として、クロック・ジェネレータIC「5P49V5901」を提供しています。図2は、この製品の実際のジッターをオシロスコープで観測した結果です。以下、各ジッターとそれぞれがシステムの性能に与える影響について簡単に説明します。
- 周期ジッター:1万サイクル分の波形におけるクロック周期の最大偏差(図2(a))。1万サイクルの期間におけるクロック周期の標準偏差が周期ジッターのRMS値である。周期ジッターのピーク・ツー・ピーク値は、1万サイクルの間の最小クロック周期と最大クロック周期の差を表す。周期ジッターは、1万サイクルに含まれるクロック周期のバラつきの幅を測定することによってアプリケーションにおける低周波ジッターの値を特定するために使用される。周期ジッターを基にすれば、システムのタイミング・マージンを計算することができる。図2(a)の測定結果からは、周期ジッターのRMS値が4.7ps、ピーク・ツー・ピーク値が41.81psであることがわかる
- サイクル間ジッター:1000サイクルの期間において、RMS値で定義される隣接する任意の2サイクルの間に見られるクロック周期の変化(標準偏差)。サイクル間ジッターのピーク・ツー・ピーク値は、1000サイクルの期間において、隣接する任意の2サイクルの間に現れるクロック周期の変化の最小値と最大値の差である(図2(b))。サイクル間ジッターの値は、アプリケーションにおける高周波ジッターの値を特定するために使用される。システムのタイミング・マージンに対する影響を最小限にするには、その値をできだけ小さく抑える必要がある。図2(b)の測定結果からは、サイクル間ジッターのRMS値が4.42ps、ピーク・ツー・ピーク値が37.03psであることがわかる
- TIEジッター:実際のクロックのエッジが、理想的なクロックのエッジと比べてどれだけずれているかを表す(図2(c))。TIEジッターのRMS値は、タイミング誤差の標準偏差である。TIEジッターのピーク・ツー・ピーク値は、タイミング誤差の最小値と最大値の差を表す。TIEジッターは、クロック・データ・リカバリ(CDR:Clock and Data Recovery)において、PLLが入力データ・ストリームをトラッキング可能である場合に重要な要素となる。TIEジッターが大きいと、CDR用のPLLは入力データ・ストリームのバラつきを正しくトラッキングできない可能性がある。図2(c)の測定結果からは、TIEジッターのRMS値が3.29ps、ピーク・ツー・ピーク値が27.93psであることがわかる
上述した3種類のジッターに加えて、位相ノイズもクロック信号の品質に影響を及ぼします。位相ノイズの測定は、周波数領域で行われます。その値は、信号電力に対するノイズ電力の比を計算し、キャリア信号から一定のオフセット分だけ離れた周波数において1Hz帯域幅に正規化することによって算出されます。一方、位相ジッターは、キャリア信号からの周波数オフセットを指定し、その範囲で位相ノイズを積分することによって得られます。図3では、12kHz~20MHzの積分範囲におけるRMS位相ジッターの値が0.610psとなっています。
図3:周波数領域におけるノイズの大きさを表す位相ノイズ曲線。ノイズの値は、信号電力に対するノイズ電力の比を計算し、キャリア信号から一定のオフセット分だけ離れた周波数において1Hz帯域幅に正規化することによって算出される |
位相ジッターは、キャリア信号のエネルギーに対する周波数オフセット範囲内のエネルギー量の割合を表します。これは、位相ノイズ曲線の下の領域を積分することによって得られます。周波数オフセットの値は、アプリケーションごとに指定されています。例えば、SONETのネットワーク・インタフェースでは、キャリア信号からの周波数オフセットを12kHz~20MHzとし、位相ノイズ曲線の下の領域を積分して位相ジッターの値を算出します。一方、Fibre Channelのインタフェースでは、キャリア信号からの周波数オフセットを637kHz~10MHzとします。