ちなみに、ここ最近搭載された機能のなかでノール氏が最も驚いたのが「コンテンツに応じた塗り」だという。「同機能が搭載されたことで、多くのフォトグラファーがこれまで直面していた問題を解決することができました」と開発チームをたたえるとともに、フォトグラファーとしてのユーザー目線からも喜んでいる様子が窺えた。
また、「コンテンツに応じた塗り」以外にここ5年間で大きく進化した部分として、Camera Raw 9.0の新機能である「写真を結合」機能(パノラマ、HDR)と「ブレの軽減」を挙げた。特に「写真を結合」では、RAWファイルを合成した後も、RAWファイルのままで保持している点を強調した。
こうした機能のなかで特に開発に苦労した部分を尋ねたところ、「写真を結合」に関しては「RAWイメージにおけるパノラマ統合のワークフローでは、まず補正をしたあとで写真を合成すると考えるのが一般的でしたが、私としては先に合成を行ったのちに補正したいという考えがありました」とし、「そのためには、パノラマやHDR、透明度をサポートした新しいバージョンのDNGファイルフォーマットを作り出す必要があるうえに、Camera Rawの加工処理のアップデートも必要であり、さらにRAWデータを合成する必要もありました。その結果、最終的なリリースまでに長い期間が必要でした」と、開発における苦労を語ってくれた。
次期搭載予定の新機能を解説
Photoshop 1.0の登場当時からこの25年間で、コンピューター性能も飛躍的に向上し、デジタルカメラも年々高画質化が進むなど、ユーザーをとりまく環境は年々変わってきている。これにともない、Photoshopもバージョンアップごとに便利な機能が次々に搭載され続け、いまや成熟期に達している感もある。
では、Photoshopは今後、どういった機能が追加されていくのだろうか。ノール氏は「既に発表したもの以外についてはお話しできませんが……」と前置きした上で、積極的に開発を進められてリリース間近となっている新機能として、去年同社が展開したイベント「Adobe MAX」で披露された「DeHaze(デヘイズ)」(MAXでは「デフォグ」と呼ばれていた)機能を挙げ、われわれにデモを見せてくれた。
まもなく登場予定の「DeHaze(デヘイズ)」は、風景写真の"かすみ"を取り除いたり、逆に加えたりするのに便利な新機能。スライダーを右へ移動すると"かすみ"が消え、左へ移動すると"かすみ"が追加される |
「デヘイズ」は、風景写真の"かすみ(haze)"を除去してクリアにしたり、反対に"かすみ"を追加したりする機能で、スライダーを右にドラッグすると"もや"が消えて風景がクッキリし、逆にスライダーを左にドラッグすると"もや"が追加されて濃い霧の中のように仕上げる様子を紹介した。ちなみに、"かすみ"を追加したい場合は、最初から少し"かすみ"が含まれている必要があるということだ。
同機能は現バージョンのLightroomやCamera Rawにも搭載されている「黒レベル」スライダーに似た効果であるものの、「デヘイズ」は「黒レベル」スライダーではたどり着けない領域まで調整できるという。既存の「黒レベル」スライダーでコントラストを上げようとすると、画像全体に適用されるため、暗い部分が黒くつぶれるケースがあったが、「デヘイズ」機能を使えば全体のディテールを保持したままコントラストを改善することが可能ということだ。
ノール氏が現在開発に携わっている「Camera Rawプラグイン」は、PhotoshopでRAW現像を行うためのもの。そのCamera Rawの最新バージョン(9.0)とLightroomの最新バージョン(6/CC)の新機能は、"現像"に関する部分だけをピックアップすれば、写真を結合(HDRおよびパノラマ)やフィルターブラシなど両者は完全に一致している。
これについてノール氏は、「Camera RawとLightroomでは共通の処理エンジンを利用しており、現像処理に限って言えば、LightroomでできることすべてはCamera Rawでも可能です。Camera Rawは"エンジン"と"ユーザーインタフェース"のふたつで構成されており、そのエンジンはLightroomに移植され、特有のインタフェースが割り当てられています。元来コードは同じですので、機能も完全に同一です」と解説した。なお、LightroomとCamera Rawは、今後のアップデートも現像に関しての新機能は同期されるとのことだ。
Photoshopを生んだノール氏がよく使う機能
ここで、フォトグラファーとしても活動するノール氏に、自身がRAW現像を行う際によく使うお気に入りの機能はどんなものかを質問したところ、前回のアップデートで搭載されたばかりの新機能「写真を結合(パノラマ)」という回答が返ってきた。「写真を結合する前に、個々の写真に対して補正しなくても済む」というのが理由のようだ。同氏はこの機能が搭載されて以来、パノラマ写真を撮る機会が増えたということだ。
さらに、将来的に搭載されるかどうかは別として、ひとりのフォトグラファーとしてLightroomに搭載してほしいと思う機能は何か?という問いに対しては、「現在のLightroomでは弱みとなっている"ぶれの軽減"です。それもRAWレベルで行えるのならば非常に興味深いです」と語った。すかさず「もちろん、"デヘイズ"もとても楽しみですよ」と次期バージョンに搭載予定の「デヘイズ」機能についてもアピールした。
最後に、PhotoshopおよびLightroomユーザーに対してのメッセージとして、「私たちがこれまで開発してきた機能を十分に楽しんでいただきたいと思います。これからも、もっと素敵な機能を開発していきたいと思います」と挨拶したのち、「ここにいる開発メンバー全員がフォトグラファーでもあるため、自分たちが欲しいと思う機能を盛り込んで行きたいと思っています」と述べ、25年前にPhotoshopを"自分の趣味のため"に生み出したという開発スタンスが今もなお、Adobeの開発チームに継承されていることをうかがわせる言葉で締めくくった。
トーマスノール氏の個人サイトには、自身が撮影した美しい写真が撮影地別に公開されている。ちなみに愛用カメラはキヤノンの一眼レフと、ソニーのミラーレス一眼レフとのことだ。 |