水星が惑星科学の重要な鍵に

BepiColombo計画では、欧州のMPOが水星の表面と内部を、日本のMMOが磁場・磁気圏をそれぞれ観測する。MMOには観測装置として「MPPE(プラズマ粒子観測装置)」「MGF(磁場観測装置)」「PWI(プラズマ波動・電場観測装置)」「MSASI(大気分光撮像器)」「MDM(ダスト検出器)」が搭載され、1年間の観測を実施する予定。

水星磁気圏探査機(MMO)の概要

水星表面探査機(MPO)の概要

MMOには、MGF用の5m伸展マスト(2本)と、PWI用の15mアンテナ(2本×2組)が搭載される。これらは打ち上げ時には収納されているが、水星周回軌道への投入後に展開する。

水星でのMMO。2本の5m伸展マストと4本の15mアンテナを展開する

赤丸が展開前の15mアンテナ。日本製とスウェーデン製で形が違う

四角い突起部分が5m伸展マスト。反対側にも1本搭載されている

飛び出た部分がMPPE。熱が入らないように白い日よけが付いている

赤丸がMDMのセンサー部。検出器にはPZT素子を採用している

赤丸がMSASI(ムサシ)。その右隣にあるのはスタートラッカ

水星でまず興味深いのは磁場の存在である。地球型惑星で磁場を持つのは地球と水星のみ。金星や火星には無いことが分かっている。惑星が磁場を発生させるためには、内部に溶けた金属核があって、それが対流することが必要だ。しかし、水星は小さいため、早く冷えやすい。すでに中心まで冷えてしまい、磁場は無いと考えられていたのだが、マリナー10号の観測で磁場が見つかり、その"常識"が覆された。

地球には磁場が存在する。これは内部に溶けた金属核があるからだ

一方、水星にも磁場があるが、北に6分の1半径ほど偏っている

しかも、水星の磁場で特徴的なのは、地球のように南北対象ではなく、北にかなり偏っていることだ。一体どんな内部構造であればこのようになるのか。メッセンジャーが周回観測を行ったものの、同機は北半球側で接近し、南半球側で離れる楕円軌道であるため、南半球側の詳細観測が不可能だった。そのため磁場の原因については、未だに大きな謎として残っている。

これに対し、MMOの軌道は南北対称。また、MPOと2機で同時観測することで、宇宙由来の磁場を取り除き、水星の磁場だけを正確に計測することが可能だ。JAXAの藤本正樹BepiColomboプロジェクトサイエンティストは「これは非常に面白い問題なので、たとえメッセンジャーの観測結果の"追試"ということになっても、絶対にやるべき」と述べ、水星最大の謎の究明に意欲を見せる。

JAXAの藤本正樹BepiColomboプロジェクトサイエンティスト

MMOとMPOの軌道。両探査機とも極軌道を周回する

そして、水星を調べることで分かるのは、水星のことだけではない。「水星からの惑星科学を目指す」(藤本氏)のだという。

我々の太陽系は、内側に岩石質の地球型惑星があり、その外側に巨大なガス惑星、さらに外側には氷惑星という層構造をしている。他の太陽系を知らなかった時代には、比較対象がないため、これを一般的なものとして、太陽系形成の理論モデルを考えるしか無かった。しかし現在、数千個もの系外惑星が見つかっており、中には水星よりも内側を回る木星クラスの惑星もあった。我々の太陽系の形は、決して"当たり前"では無かったのだ。

新発見により、これまで考えられてきた標準理論が再検討の対象に

お馴染みの我々の太陽系。だが、この姿は当たり前では無いという

水星には磁場のほか、「揮発性物質が多い」という謎もある。太陽に近いと温度が高く、揮発性物質はガスとなって逃げ、早く無くなってしまうはずだ。ところが、水星には揮発性物質が予想より多く、金星、地球、火星のトレンドからは大きく逸脱している。もっと遠い場所で誕生し、現在の位置に移動してきたという可能性もあるそうだが、現在まで、理由は分かっていない。

なぜか多い水星の揮発性物質。トレンド(赤点線)から上に飛び出している

以前は月と同じように生まれたと考えられていたが、どうも違うようだ

こういったことを調べると、4つの地球型惑星がどうやって形成されたのか、大きなヒントになるかもしれない。BepiColombo計画が立ち上がった当初は、「ただ不思議だから行こう」という感覚だったのが、惑星の多様性が分かってきたことで、現在は「すごく重要な情報を与えてくれるに違いない」と、問題意識が大きく変わったそうだ。同時期にスタートしたメッセンジャーに大きく先行されたものの、遅れて良かった面もあったわけだ。

MPO/MMOの水星到着まであと9年。観測結果が出てくるのはまだまだ先であるが、非常に楽しみなところだ。

ところでMMOという名前についてだが、ちょっと「味気ない」という意見もある。「はやぶさ」のような愛称を付けるかどうか、可能性はあるものの、現時点では未定だという。過去にも、日米の共同計画だった磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」のように和名がなかったケースもあるが、「ESA側が混乱してもいけないので、相談しながら考えたい」(早川プロマネ)ということだ。