そんな事情もあり、自腹で購入した初めてのヤマハ製ネットワーク製品は「RTX1000」ということになった。すでに時代は常時接続、そこでIPsecとPPTP(Point to Point Tunneling Protocol)の両方に対応したルータとして登場して、ひとつの時代を造った金字塔といえる製品だ。
購入の動機はいうまでもなく、「ヤマハルータでつくるインターネットVPN」の最初の版を執筆するため。その際に購入したものが、筆者の自宅では未だに現役である。インターネット接続回線の性能とLAN側のクライアントPCの台数を考慮すると、RTX1000の能力で十分に対応できるので、未だに現役を務めているというわけだ。その間に発生したトラブルといえば、一度だけヒューズが飛んだことぐらいである。動作はおそろしく安定しており、実に頼りになる。
個人ユーザーのことでLAN間接続のニーズはないが、PPTPで出先から自宅のLANにアクセスできる環境を構築できたのは、なかなか便利だった。旅先で書いた原稿を自宅LAN上のサーバに放り込んでバックアップしておく、なんていうことができる。
唯一、能力的に不足を感じるのはLAN側のスイッチングハブが100BASE-TXというところだが、登場した時代を考えれば100BASE-TXが普通だったのだから、これは致し方ない。そこで、GbE対応のスイッチングハブを別途用意して、LAN内部のPC同士はそれを介して接続、インターネットとの間を行き来するトラフィックだけをRTX1000に回している。
この後にRTX1100やRTX1500といった製品が登場した。スループットを高めたり、センタールータとして対応できるだけのキャパシティを持たせたりといった形の進化をしているが、基本的にはRTX1000の延長線上にある製品ではないかと思う。
逆に、小規模ユーザーや拠点ルータとしての用途にはRT107eなどの安価な製品が登場したが、これらの製品はWebブラウザを使った設定画面を充実させており、そこのところで製品の位置付けを垣間見ることができる。
RTX1200
これも能力向上を図った製品であることに違いはないが、センターでも拠点でも使えるオールマイティな性能を持たせたという点で、従来のRTXシリーズとは一線を画した製品ではないかと思える。
「センタールータとしてRTX1500、拠点ルータとしてRT107e」という具合に使い分ける方が、調達コストは安価になるかも知れない。しかし、機種統一を図って調達・管理を合理化するのもひとつの行き方。RTX1200であれば、それに応えられるだけの能力を持っている。
そのオールマイティさ故に、SWX2200との組み合わせによる「ネットワークの見える化」を筆頭として、ヤマハのネットワーク製品が特徴とする機能が、先陣を切ってRTX1200に導入されてきたのではないだろうか。先日にも、RTX1200がモデルチェンジの対象となってRTX1210に生まれ変わったのも、前モデルのRTX1200が枢要な位置を占めて、重視されていたことの証ではないか。
それに、製品を開発・販売する側にしても、用途別にいろいろな機種を用意するよりも、(可能であれば)単一の機種でたいていのニーズに対応できるようにして機種を絞り込む方が、リソースを集中できて、良い結果につながりやすくなるだろう。
メーカーとユーザーの距離
ヤマハのネットワーク製品に関わってきて感じたことだが、メーカーとユーザーの距離が近いのではないか。それは、メーリングリストやユーザー会などのチャンネルを通じて、メーカーとユーザーが直接的にやりとりする場面がいろいろ設けられているからだ。
どこのメーカーでも、ユーザーの声を吸い上げて反映するための活動は行っているだろうが、その際の「距離感」がどこでも同じかというと、そうでもあるまい。そしてヤマハの場合、その距離が「近い」と感じる。ヤマハという会社とユーザーの距離というよりも、ヤマハでネットワーク製品の開発に携わっている関係者とユーザーの距離、という方が適切かも知れない。
もちろん、製品そのものの良し悪しも重要なファクターだが、このメーカーとユーザーの距離感、あるいは関わりといったところは隠れた良さだ。これを、今後も維持していってもらえれば嬉しいところだ。
そういえば、RTX1210で挙げられたセールスポイントのひとつに「従来製品とconfigの互換性を維持しています」がある。口でいうのは簡単だが、これを実現するのはあまり簡単ではなさそうだ。しかしユーザーにとってはとても助かる話なので、可能な限り、これは守り続けて欲しいと思っている。