さて、そのZynqの後継製品である「Zynq UltraSCALE+ MPSoC」の話である。これまでは"All Programmable SoC"などと呼ばれてきたが、この世代では「MPSoC(Multi-Processing System on Chip)」に名称が切り替わった。

Photo09:Video Codecは最初はMali-V500かと思ったのだが、H.265のEncodeをサポートしている時点で別物であった。すでに同社がIPの形で提供しているH.265のCodecをハードIP化したものとの事

内部構造はPhoto09の通りで

  • Application Processorは最大1.3GHz駆動のQuad Core Cortex-A53
  • Realtime Controllerは最大600MHz駆動のDual Core Cortex-R5
  • GPUとしてMali-400MPも搭載
  • セキュリティ機能としてTrustZoneも搭載

という、明らかに欲張りすぎとしか思えない充実振りである。実際(コストとか消費電力を無視すれば)これだけでAndroid Tabletが1個作れてしまいそうだ。また、Programmable Logicの側にはハードIPの形でH.265のCodecが搭載されているのも特徴的であり、4Kなら60fps、8Kでも15fpsでEncode/Decodeが可能である。このCodecをハードIPとしてProgrammable Logicの側に実装した理由は、多くの用途で要望が多いからとの事。例えばVideo Surveillanceなどではカメラの高解像度化が進んでおり、映像データをそのまま転送すると帯域と保管容量の両面で破綻するので、なるべく圧縮を、ということでH.264のCodecを搭載するのはすでに必須条件になっているが、4Kとかになるとそれでも容量が大きすぎるため、H.265に切り替わりつつある。従来だとこれをProgrammable Logicを使って実装していたが、ハードIP化すればProgrammable Logicの節約にもなるし、消費電力も下げられて良い事尽くめである。

また自動車あるいは産業機器などのFunctional Safetyの要件が求められるアプリケーション向けに、

  • LockStep
  • System Isolation
  • Error Mitigation

といった機能が並んでいるのも特徴的である。ただこれを利用できるのはCortex-RコアをベースにしたReal-Time Processing周りで、流石にCortex-A53のLockstepなどはサポートしないそうだ。このSafety/Secutiry周りは、Zynq MPSoCで本格的に産業機器あるいは自動車向けのマーケットに参入することを念頭に置いたシステムに見える(Photo10)。

Photo10:これまでLockstepは特定用途向けASSP(というか、特定用途向けMCU)の独壇場だったのが、遂にFPGAにまで採用されるようになったのは感慨深いものがある

さて、ここから若干ながらベンチマーク結果も示された。まずは28nm世代の7シリーズFPGAとの比較(Photo11~13)。Photo11は、既存の7シリーズFPGAで動いているロジックをそのままUltraSCALE+に移植した場合で、何もしなくても絶対性能や性能/消費電力が改善するとしている。ここで、UltraSCALE+の方で(外部DRAMではなく)UltraRAMを利用するように変更すると、さらに性能の上乗せがあり(Photo12)、さらにSmartConnectまで併用すると、より一層の改善が可能になるとする(Photo13)。またZynq UltraSCALE MPSoCの方では、既存のZynq-7000と比較して、こちらも大幅に性能/消費電力比が改善できるとしている(Photo14)。

Photo11:左は基地局向けに48ポートのCPRI(Common Public Radio Interface)の処理とベースバンド処理をやらせた場合の消費電力、右はFPGAを乗せたPCIeボードで画像処理をやらせた場合の処理性能である

Photo12:外部DRAMを使わなくても済む分消費電力は下がるし、帯域/レイテンシともに改善されるから性能の底上げにも繋がる

Photo13:もっともSmartConnectを使うことで「どの接続形態がどの接続形態に変わったか」がここでは明らかではないので、使えば「常に性能改善/消費電力削減が可能」かどうかまでは判断できないが

Photo14:あくまでも性能/消費電力比であって、絶対性能ではない。とはいえ、Zynq-7000が最大1GHz駆動のCortex-A9だから、1.3GHzのCortex-A53と絶対性能ではほぼ同程度(同一周波数だと、Cortex-A53の絶対性能はCortex-A9よりやや低い)で、あとはコア数が2倍になっている分、まぁZynq-700の2倍といったあたりであろう

さてそのUltrascale+製品だが、今年第2四半期中にTape outし、サンプル出荷は今年第4市販期中を予定しているとの事だ。またデザインツールは今年第2四半期から一般ユーザーにも利用可能になるとしている。

Photo15:もっともこの出荷時期はGeneral ESではなく、Lead customerへの出荷というあたりに留まりそうな気はする

ところでKintex/Virtexに加えZynqもUltraSCALEに移行が済んだが、Artixは? と尋ねたところ、Artixのみ異なったマーケットを志向しており、ここでは価格が重視されるので、今のところUltraSCALEに移行する予定は無いとの事だった。

最後に、併せて公開されたProduct TableをPhoto16~19に示しておきたい。

UltraScale+製品のラインアップ