オペアンプのノイズ仕様値
ここまでオペアンプ内部のノイズ因子について述べましたが、これらはすべてオペアンプのノイズ仕様値に寄与します。システムを設計する際は、さまざまなオペアンプを選択できます。しかし、低ノイズオペアンプを選択する際には、電圧/電流ノイズ仕様値や当該応用におけるアンプの使用方法など、各種要因を考慮する必要があります。
ほとんどの場合、オペアンプの製造者は、ノイズ仕様値として電圧ノイズ密度を強調します。これは重要な値ですが、他にも重視すべき仕様値が存在します。しばしば、電流ノイズの方が大きな問題となる事があります。入力電圧ノイズ密度の仕様値は、アンプのホワイトノイズが支配的な(1/fノイズの影響を排除した)状態での値です。電流ノイズ密度もホワイトノイズが支配的な状態での値ですが、入力抵抗が高いアプリケーションで非常に重要です。下表に、Microchip Technologyの「MCP621S」とTexas Instruments(TI)の「LMP7731」というオペアンプの仕様値を示します。
パラメータ | MCP621S | LMP7731 |
---|---|---|
最大入力オフセット電圧(μV) | 200 | 500 |
GBWP(MHz) | 20 | 22 |
電源電圧レンジ(V) | 2.5~5.5 | 1.8~5.5 |
電圧ノイズ密度(nV/√Hz) | 13 | 2.9 |
電流ノイズ密度(fA/√Hz) | 4 | 1100 |
表1:オペアンプの主な仕様値 |
これらのオペアンプのオフセット性能、速度、動作電圧レンジは概ね同等である一方、ノイズ仕様値は大きく異なります。多くの場合、電圧ノイズ密度が低いオペアンプは低ノイズであると宣伝されます。しかし、この値が低いオペアンプの方が常にノイズ性能に優れていると言えるのでしょうか。
これを確かめるため、図1に示す単純なボルテージ フォロワ回路について検討します。
実際の回路設計ではICの内部ノイズ、全ての素子の熱雑音、外部ノイズ等の各種ノイズ因子を考慮する必要があります。しかし、この例ではアンプ関連ノイズと入力抵抗RINの熱雑音にのみ着目します。この例では、周囲温度を25℃として熱雑音を推定します。
ソース インピーダンスがゼロである場合、アンプの電流ノイズに起因するノイズ成分は発生しません。なぜならば、この電流が何らかのインピーダンスに流れない限り電圧エラーは発生しないからです。同様に、抵抗がゼロであれば入力抵抗の熱雑音も発生しません。この場合、アンプの電圧ノイズが支配的となりLMP7731の方が良好なノイズ性能を示します(表2の「0Ω」データ列参照)。
しかし、ソース インピーダンスが10 kΩまで増大すると、この抵抗による熱雑音が影響し始めます。抵抗の熱雑音電圧は下式により定義されます。
- VTH = 熱雑音電圧(Vrms)
- k = ボルツマン定数(1.38 × 10-23)
- T = 温度(K)
- R = 抵抗(Ω)
- B = 帯域幅(Hz)
この式から、nV/√Hzを単位とする熱雑音は以下のように求まります。
- VTH' = nV/√Hzを単位とする熱雑音
アンプの電流ノイズ密度仕様値にソース抵抗値(10kΩ)を乗算すると、LMP7731の電流ノイズは熱雑音と同等レベルまで増大するのに対し、MCP621Sの電流ノイズは非常に低く維持されます(表2の「10kΩ」列参照)。最後に、ソース インピーダンスが100kΩまで増大した場合、MCP621Sでは抵抗の熱雑音が最も支配的となるのに対し、LMP7731では電流ノイズが最も支配的となります(表2の「100kΩ」列参照)。
MCP621S ノイズ源(nV/√Hz) |
RINの値 | ||
---|---|---|---|
0Ω | 10kΩ | 100kΩ | |
アンプの電圧ノイズ | 13 | 13 | 13 |
アンプの電流ノイズ | 0 | 0.04 | 0.4 |
RINの熱雑音 | 0 | 13 | 41 |
総ノイズ | 13 | 18 | 43 |
LMP7731 ノイズ源(nV/√Hz) |
RINの値 | ||
0Ω | 10kΩ | 100kΩ | |
アンプの電圧ノイズ | 2.9 | 2.9 | 2.9 |
アンプの電流ノイズ | 0 | 11 | 110 |
RINの熱雑音 | 0 | 13 | 41 |
総ノイズ | 2.9 | 17 | 117 |
表2:各ノイズ(nV/√Hz)の寄与度 |
以上、単純な回路例を使った比較から、実際の応用におけるアンプのノイズ性能を評価するには、電圧ノイズだけでなく電流ノイズも考慮する必要がある事が分かります。電流ノイズが支配的となる高インピーダンスアプリケーション(pH計や恒温槽付きオシレータなど)には、電流ノイズ仕様値が低いアンプを選択する事が極めて重要です。
本稿では、オペアンプのノイズ仕様値に加えて、アンプ内部のノイズ因子についても紹介しました。これらのノイズ因子はシステムレベルで直接考慮する必要はありません。しかし、これらについて理解しておく事は、応用内のノイズの悪影響を最小限に抑えるために役立ちます。
著者紹介
Kevin Tretter
Microchip Technology
Principal Product Marketing Engineer
Analog & Interface Products Division