Gordon Bell氏が提唱したBellの法則

Gordon Bell賞の創始者であるBell氏は、おおよそ10年ごとに新しい重要なクラスのコンピュータが出現するというBellの法則を提唱した。次の右上の図は、それぞれのアーキテクチャのシステムがTop500システムの中で占める割合を示したグラフで、1994年頃まではベクトルスパコンの時代であった。しかし、それ以降は、(IBMのPOWERや富士通のSPARC64のような)カスタム設計されたスカラCPUを使うスパコンが多数を占める時代となり、これが10年程度続いた。まさにBellの法則が当てはまる状況であった。

そして、2003年頃になると、x86などの市販の汎用プロセサを使う小規模サーバをクラスタ接続するマシンが主流を占めるようになり、この状況は現在も続いている。 アクセラレータを使うマシンが増え始めているが、近い将来、これが主流となり、汎用CPUだけのクラスタシステムの時代が終わって、Bellの法則が成り立つようになるのかどうかは、まだ分からない。

ほぼ10年サイクルで重要なクラスのアーキテクチャのコンピュータが出現するというBellの法則。Top500スパコンにも成り立つのか?

Custom Scalarの時代はほぼ10年、Commodity Clusterの時代はもうすぐ終わるのか?

Top500スパコンの性能の伸びがこのところスローダウンしていることは明らかであるが、2015年から2017年頃に掛けて、100~数100PFlops級のスパコンの設置計画が米国や中国をはじめとしていくつか出てきており、現在のスローダウンは一時的なものであるという見方もある。一方、ムーアの法則もスローダウンしており、テクノロジの伸びとスパコン性能の伸びの乖離が大きくなり、システムが巨大化し、コストも高くなるので、Top500級のスパコンの調達がスローダウンしてきているという見方もあり、どちらが正しいのかは、まだ、はっきりしない。

次の2つの図は、国別の性能合計の伸びと、今回のTop500リストでの国別のシステム数を示すパイチャートである。

国別の性能合計では、米国が一貫してトップを走っており、EU全体の合計の性能も、概ね、米国の線と並行で推移している。日本と中国の線を見ると、中国の急速な性能向上が目立つ。2010年以降でいうと、京コンピュータの完成で一時的に逆転したが、それ以外では、中国の性能合計が日本のそれを上回っている。

国別のシステム数では、米国がほぼ半分の46%を占め、中国が12%でそれに続いている。こちらのグラフはEU全体のまとめでなく国別になっており、日本、英国、フランス、ドイツの各国が5~6%というレベルで並んでいる。

国別の合計性能の推移。米国はトップを維持、中国が猛追。日本は米、EU、中国に次いで4位

国別のシステム数のシェア。米国が46%とほぼ半数。中国が12%で2位

Top500の世界では、このところの性能の伸びのスローダウンが今後どうなっていくのか、近い将来、現在の汎用CPUだけのコモディティクラスタの時代が終わり、新しいクラスのコンピュータの時代に変わるのかが注目される。

また、Top500は密行列を計算する性能を測っているが、これでは現代の問題を代表していないということから、HPGMGやHPCGベンチマークが提案されており、これらのベンチマークで測ると、性能の伸び方が、ある程度変わって見えることになるかも知れない。

Bellの法則の新しいクラスのコンピュータは、HPLの計算性能を上げるのではなく、ストレージを含めてビッグデータの処理性能を画期的に引き上げるという方向に行く可能性が高く、HPL性能で計測している限り、新しいクラスのコンピュータの台頭は見えないかも知れない。Top500の分析は、どのようにスパコン界が動いて行くかについて考えるヒントを与えてくれるが、スパコン界の動きを理解するためには、Top500以外のより広い範囲の分析も必要となる。

そしてスパコンへの投資額は、国家間の競争や安全保障などにも影響される。その点で、中国の急速な台頭や国別のシェアもスパコン界の動向に影響を与える重要な要素であり、スパコン界は目が離せない状況となっている。