スパコンの新設はスローダウンしている

恒例であるが、SC14で第44回のTop500の「BoF(Birds of a Feather:同じ羽を持つ鳥の集まり、転じて同好の士の集まり)」が開催された。今年1月に、Top500の創始者の1人であるHans Meuer教授が亡くなったので、委員会のメンバーはご子息のMartin Meuer氏に交代している。

Top500 BoF(Birds of a Feather)。右から、Horst Simon、Eric Strohmaier、Jack Dongarra、Samuel Williams、Mike Heroux、Martin Meuerの各氏

なお、Samuel Williams氏はHPGMG、Mike Heroux氏はHPCGという新しいベンチマークプログラムの説明のための参加であり、Top500委員会のメンバーではない。

Top500というとリストの順位だけが注目されるが、その価値は単なる番付表というだけでなく、その中身を分析して行くと、スパコン界の状況が見えてくるという点が重要である。

今回のTop500では、1位の天河2号から9位のVulcanまで、前回のリストからまったく変動がなく、かろうじて10位に米国政府機関のCray CS-Stormスパコンが入ったということだけが変化である。

右側の図は、これまでの毎回のTop500リストで、何システムの新しいスパコンがリスト入りしたかを示している。もちろん、毎回、新システムの数は変動するが、概ね、150~200システムという状況が2013年6月までは続いていた。しかし、その後、新システムの数は急減し、今回は78システムになってしまった。明らかに、2013年以降は、Top500リスト入りする規模のスパコンの新設がスローダウンしている。

今回(第44回)のTop500のTop10は9位までは前回と同じ。10位に米国政府の新システムが入っただけ

1993年からのTop500でどれだけ新しいシステムが入ったかを示す折れ線グラフ。150~200システムが新顔という状況が続いていたが、ここ3回は新顔が減り、第44回では僅か78システムになってしまった

新設のスローダウンの結果、リストに入っているスパコンの平均年齢が上がってきている。左上の図のように、2011年頃までは平均1.27年前後で推移していたが、それ以降、平均年齢が上がってきて、今回のリストでは2.9年と過去の2倍以上の年齢となり、Top500の世界も急速に高齢化が進んでいる。

右上の図は、500システムの性能の合計の値の直前のリストからの伸びを示すものである。このグラフはアップダウンが激しいが、過去にはおおむね1.9倍弱程度とムーアの法則の1.6倍(なぜ、ムーアの法則が1.6倍かは不明)を上回る伸び率で推移してきたが、このところ1.2倍程度という低い伸びになっている。

左下の図は、Top500全システムの性能の合計、1位のシステムの性能と500位のシステムの性能の推移を折れ線グラフで示したもので、1位の性能の線はでこぼこしているが、合計と500位の性能は片対数グラフに綺麗に乗っていた。しかし、2011年ころから500位の性能の伸びがスローダウンし始め、2014年には合計の数値の伸びもスローダウンの兆候が出始めている。

右下の図は、性能の合計値が500システム合計の性能値の半分となる順位の推移を示すグラフで、2010年頃までは上位50~70システムの性能合計が全システムの性能合計の半分を占めるという状況であった。しかし、このところ上位10~30システムで半分を占めるという状況になっている。これは性能の高い大規模システムと性能の低い小規模システムとの2極化を意味している。

Top500のシステムの平均年齢。2010年以降、長くリストに留まる傾向

Top500システムの合計性能の回毎の増加率の推移

500システム合計、1位、500位の性能推移。合計と500位では伸び率が低下

合計の性能が全体の半分になる順位の推移。かつては50~60位であったが、最近は10~30位

次の左上の図は、システムの平均性能の推移と1個のプロセサの性能の推移を示すもので、縦軸は適当にスケールされているので、絶対的な値は意味はない。この図から明らかなのは、プロセサの性能の向上にくらべて、システム性能の伸びの方が大きく、テクノロジの伸びだけではスパコンに必要とされるたけの性能向上を支えることは出来ず、使用するプロセサの個数の増大で対処しているという状況になっているということである。

右上の図は、500システム全体で、GPUなどのアクセラレータが占めるFlops値の合計を示すものである。2012年から2013年に掛けて、アクセラレータのFlops値の急速に増加したが、その後は、伸び率が減少している。

左下の図は、アクセラレータのFlops値が全体のFlops値の中で占める割合を示したもので、このところ34%くらいのところで留まっており、どんどんアクセラレータのFlops値が伸びて、Top500全体の性能を引き上げて行くという状況ではない。

右下の図は、LINPACKのFlops値を消費電力で割ったエネルギー効率の図であり、リストの中で最も効率の良いシステムのFlops/W値は順調に伸びているが、下位のシステムでは効率の改善が遅れていることを示している。Top10システムでは2000GFlops/kW程度になっているのに対して、Top50システムでは1500GFlops/kW、Top500システム全体では1000GFlops/kWとTop10に比べて半分の効率でしかない。

システムのHPL性能の平均値の伸びに比べて、チップあたりの性能の伸びが低い。最近はこの乖離が大きくなっている

GPUなどのアクセラレータが期待の星だが、2012年頃に比べて合計性能の伸びは鈍化している

Top500全体の性能の内のアクセラレータの性能シェアも、このところ34%程度で一定

電力効率トップのシステムの記録は順調に伸びているが、下位のシステムほど効率改善のペースが遅い