――従来のほぼ日手帳はペンホルダーとペンで閉じるバタフライストッパーを採用していますが、SSACKはそれとはまったく異なり、マグネットで止める形式ですね。

ほぼ日:
カバーの留め方に関しては、かなり悩みました。

開発段階で作られたプロトタイプ。製品版と異なり、ボタンで留める形などさまざまな方法が検討された

佐藤:

最初は、シリコンの素材同士を密着させることで張り付かないかだとか、でこぼこをつけておいて、押すだけでくっつくような構造を模索したりと、さまざまな方法を考えました。あとは、バンドで留めてしまおう、という案もありました。先ほどお話しした通り、人によって手帳の厚さ、すなわち手帳を留める位置が変化しやすいのがほぼ日手帳の特性ですから、そこをどのようにクリアするかという部分が、とても難しかったですね。

試行錯誤の末、磁石で留めることに決まりました。そうすると、巻き付ける終点のところが、洋封筒のような形になるわけです。斜めにカットしないと、余った端の部分がベロベロとめくれてしまうでしょう。でも、磁石を1点で留めて引っ張る形にすれば、こうベロベロするところが少なくなります。この形も、見た目を追い求めたのではなくて、機能から必然的にそうなったものなんです。

こうした創意工夫を乗り越えてみると、変化する手帳の厚みに沿わせていくということに対して柔軟に対応できるシリコンは、この手帳に適した素材なんだと感じられるようになりました。

――従来のほぼ日手帳ではペンホルダーがストッパーでもありましたが、SSACKでは別途ペンクリップを挟むためのパーツを作られていますね。

留め具の話の続きにもなりますが、既存のほぼ日手帳から離れる、という意味だけではなくて、シリコンでバタフライストッパーを作ると強度が足りないんです。ペンの抜き差しにも耐えられないでしょうし、手帳の外側にあると、かばんの中の持ち物と引っかかって力がかかってしまう。だから、いっそ手帳の中に入れてしまった方がいいだろうなと考えて、そこからペンを引っかけて入れるような形が生まれました。

――SSACKのカラーバリエーションはかなり鮮やかでありつつ、ややパステル調の色味ですが、この色選びに至った理由を教えてください。

佐藤:

シリコンという素材の発色はかなり自由になるので、皆さんと一緒に話し合いながら検討していきました。

ほぼ日:

どうしても他のラインナップとの兼ね合いもあるので、バリエーションをたくさん出して、他との調和を見ながら決めていきました。ただ、やっぱりシリコンらしい発色のよさとかわいらしさが合わさった雰囲気は、生地では出せない部分なので、そこを活かすことは考えました。

佐藤:

シリコンという素材は本当にバリエーション豊かなので、その発見と共に、またカラーバリエーションが増えてくる可能性もありますよね。

ほぼ日:

色を決定してから工場に行ったところ、それまでに見たことのないすごくはっきりとした蛍光色のシリコン素材を見かけたました。蛍光色に関しては、毎日使う物としては強すぎるかと思って見送りましたけれど、今後色が増えることもあるかもしれません。

表面も、今回のような平らな物だけでなく、シボを付けたり、エンボス加工をしたり、模様を付けたりもできるので、まだまだ発展しそうな面白い素材を見つけた、という段階です。

佐藤:

そうそう、だから、可能性の扉が開いた感じがしますよね。

――なるほど。話は変わりますが、以前糸井重里さんに今季のほぼ日手帳についてインタビューさせていただいた際、「SSACK」はこの手帳のスチューデント・モデルにあたるというようなご説明をいただいたんです。佐藤さんがデザインを手がけるに当たって、若い方が手に取ることを念頭に置かれていたんでしょうか。

佐藤:

シリコンのような素材に違和感なく触れる人たちというのは、比較的若い人だろうなという意識はありました。だけど、最初の入り口を若い人だとしても、大人の方々に好きになっていただけたのであれば、ぜひ使っていただきたいです。第一の対象としては若い人になるかもしれないけども、その奥にはいろんな人たちがいるので、デザインにおいて、やはり普遍性というのは、常に考えておかないといけないと感じています。

だから、僕がデザインするときはいつも、例えば「若い人」向けに完全に絞ったデザインはまずしてないんですよ。入り口のその先を見る視点というか、それはいつもね、考えてはいるんですよね。

――SSACKは100%シリコンで作られたカバーですが、今後、他の素材と組み合わせるなど、他の展開はあるのでしょうか?

佐藤:

そうですね、可能性としてはあると思います。繰り返しになりますが、シリコンはこう、テロテロとした形の決まらない素材なんです。だから、何かと貼り合わせることによって、質感や触感、使い勝手といった感覚的な部分で、新しいと感じられる素材が生まれるんじゃないかと思いまして、そのような作りのプロトタイプも提案させていただいたんです。だけども、新しい素材から開発を行うみたいな方向になると、それはそれは時間がかかるんですよ。

そうやって複雑なことを突き詰めていく一方で、ものすごくシンプルに作ることも考えて、後者のほうがコストは抑えられると気づきました。まず手にとってくださる若い人たちのことを考えた時に、やっぱり高価な物は買えないじゃないですか。そういった流れで、今回は違ったかたちになりましたが、この(シリコンと異素材と組み合わせる)方向をこれからも探っていくことは、僕はいいのではないかと思っています。

――今後、SSACKの第2弾、第3弾もありうるということですか?

佐藤:

「ほぼ日手帳」全般にいえることなのですが、糸井さんやみなさん、そして僕たちという"「ほぼ日手帳」チーム"は、決して満足しないんですよ。次の年には「何か」できる、もっとよくできるぞという姿勢で取り組んでいます。もちろん、その時点では一番いいと思えるものを世に出しているのですが、それでも、出来上がったものを常に疑ってかかるわけです。

SSACKに関して言えば、初々しい新人で、「まだまだこれから精進しなさい」と言いたくなるようなところがありますね。