レタッチャーにとってベストな素材はRAWデータ
ここで、同Webサイト内の「Adobe Photo Museum」の紹介に移った。ここでは、葛飾北斎の“冨嶽三十六景 凱風快晴”やボッティチェリの“ヴィーナスの誕生”、ゴッホの“ひまわり”といった名画をモチーフにしたデジタル写真を、PhotoshopやLightroomでそれらしく仕上げるための方法やTIPSが紹介されているが、その素材として使われた写真は鈴木氏が撮影し、"名画写真"に仕上げるまでのレタッチは平野氏が担当している。
まずは鈴木氏が、北斎風の赤富士をイメージした写真のもととなった富士山の写真を撮影したときのエピソードを紹介した。1泊2日で撮影に出掛けたものの、初日は富士山の形すら見えず撮影を断念し、2日の朝、辛うじて輪郭だけ見えた約1分間に撮影したそうだ。撮影データはとても不明瞭であったが、Lightroomで「コントラスト」を目いっぱいまで上げたという。この時点の写真について平野氏は、レタッチャーの目から見て「許容範囲」とし、場合によってはもっとひどいデータで依頼されることもあるという。
レタッチャーにとってベターな素材とは「階調がしっかりと残っているもの」とし、RAWデータで渡してもらうのがベストだとした上で、どのような状態でデータでやりとりするのかを、事前にフォトグラファーやアートディレクターと打ち合わせをしておくのが理想的だとし、同時に、そうした人たちもLightroomやPhotoshopでどこまで可能なのかということを理解しておくべきだと語った。
名画をモチーフとした写真コンテストの作例を解説
続いて、「Adobe Photo Museum」のサイト上に掲載されている「不明瞭な富士山写真が北斎風に生まれ変わる方法」や「時間が止まったヴィーナスが、躍動感あるヴィーナスに生まれ変わる方法」の調整やレタッチ手順を、平野氏がPhotoshopやLightroomでの実際のデータを使って詳しく解説した。なお、これらの制作過程は、アドビ システムズと写真共有サービス「フォト蔵」が共催で実施している、名画をモチーフとした写真に仕上げるフォトコンテスト「Adobe Photo Museum」の作例だ。同コンテストの最優秀賞には賞金30万円が贈呈されるとのことなので、気になる人はフォトコンテストの特設サイトをチェックしてみよう(応募締め切りは11月30日)。
写真が人生を楽しむ障害になってしまってはいけない
続いて、同セミナーのタイトルである「撮影と画像処理のバランス」についての話となった。鈴木氏は「仕事でもないのに重たい三脚やレンズなどの機材を持ち歩くよりも、LightroomとPhotoshopがあれば三脚なしで楽しく撮ったものをあとで調整したほうがスマートだと思う」と述べた。その理由として、「三脚を持たなくなれば、その手でアイスクリームを持ったり彼女の手を握ったりできる」とし、以前インターネット上で話題となった"プロカメラマンが教える!知っておきたい写真のこと100"の中から、「写真が人生を楽しむ障害になってしまってはいけない」という言葉を紹介した。
一方の平野氏は、撮影と画像処理はどちらも同じ意識で楽しんでいけば、作っていく人の世界が広がっていくのではないかと語った。最後に鈴木氏は「現場でできることと家でできることをその場で判断し、撮影を楽しんでいただきたい」、平野氏は「こだわりを多方面にもっていけば、自分の世界が広がると思います」という言葉でセミナーを締めくくった。