――吉岡さんの仕事ぶりを拝見していると、ミラノサローネをはじめ、海外でのお仕事が多い印象です。それでもなお日本を拠点にしているのはなぜでしょうか?
およそ半分ほどが海外からの仕事ですが、やはり自分が作りたいものを、より高い完成度で実現できるのは日本なのかな、と思っています。これまで一緒に取り組んできた職人さんたちもいらっしゃいますし、そういった方々との信頼関係も、何十年もかけて構築してきたものなので、大切にしたいと思っています。
――海外企業からの依頼が半分程度ということで、もう半分として日本の企業から依頼を受けることもあるかと思うのですが、海外の企業と日本企業との依頼を比較して、何か違いはありますか?
海外企業は、価格競争に巻き込まれないような独自の新しい物、ひいてはブランドを築いていきたいという姿勢があるように思います。一方で、国内企業は、開発期間や費用面などにおけるリスクに対して大変厳しく、新しい物を生み出すというような方法は採りづらいように感じています。
ただ、(海外の仕事を多く手がけることで)日本で仕事しやすくなった、という面は強くありますね。海外での実績をあげたことにより、活動初期よりも自分のアイデアを日本で実現しやすくなりました。
――ミラノサローネにも国内企業が複数出展していますし、海外拠点を持つメーカーも多くありますが、かなり違いがあるのですね。
最初から「世界に向けて」という気持ちで依頼してくださる方は、正直なところ少ないです。国内向けで制作し、海外で販売できればそれはそれでいい、という傾向があるように感じています。
――今や世界をまたにかけて活躍されている吉岡さんですが、若いころはなかなか評価されず、「どうして認められないのかわからなくてもやもやしていた」とお聞きしました。同様の思いを抱える若手クリエイターに向けて、その期間を乗り越えるための心構えや、当時の体験談などお話しいただけないでしょうか。
挫折するしない、というよりも、「ものを作りたい」という、ただそれだけのことだと思います。実現したいことに対してどこまで諦めず、頑張れるということが、力の差になってくると感じます。 いずれにせよ、物を作り、実績を作る必要があります。作って、それを見た相手に納得してもらわなければならない。実現したいことや作りたい物があるのなら、諦めないでずっとやり続けていかなければなりません。
――継続は力なりといったところでしょうか。しかしながら、そうした意欲や意思を持続させるのが難しくもあり、最も大切な部分かと思います。
すべてを捨ててものづくりを集中できるかどうかですね。自分の場合、作ることを何より優先してきたといいますか。
例えば、このラウンジにあるスツールひとつ取っても、自分の手を動かすことをせず眺めていたら、「自分でも簡単に作れるんじゃないか」と感じる人もいるかもしれません。しかし、このスツールに限らず、ものを完成させることは容易ではありません。自ら試行錯誤して作る体験をしないと、感覚が狂ってしまいます。
――最後になりますが、吉岡さんはデザインワークを語るにあたり、「未来」だとか「新しい」というキーワードを口にされることが多いですが、一歩先を見つめるために何か必要な心がけいうか、気をつけてらっしゃることはありますか?
常にアイデアを考えています。依頼をいただいてからアイデアを考えるということではなくて、とにかく新しいことを考えるようにしています。仮に依頼がなくても、作りたいものがあれば自分のプロジェクトで実現しようと考えています。
(作品発表などの)「チャンスがない」と嘆く人は数多くいると思います。しかしそれは、チャンスがないのではなく、ただ作ることをしていないだけなのではないか、と。 チャンスを得てから作るのでは遅く、ただただ自分が物を作りたいから作る。チャンスの有無の問題ではないと思います。
――ありがとうございました。