反復的なUIS電力派生値は、次のとおり定義されます(図3を参照)。
単一UISによる温度過渡を図4に示します。MOSFETの熱応答グラフ(図5を参照)、および高速過渡に対応する近似直線の式(少なくともtAVの時点まで)を参照します。これは、sqrt(t)の関係に従います。ダイの厚さによって、高速過渡の期間が決まります。
この近似高速過渡RthjAは、単一UISによる温度過渡を形成するのに役立ちます。単一UISイベントが発生した場合の電力パルスは、次式で表される、10個の均等な個別の電力パルスに変換されます。
上式を使用して過渡をプロットすると、ピーク温度が発生するのはn=5の時点です。
(図5に示した) ヒートシンクを含めた熱抵抗RthjA(t)を求めることができます。材質の熱容量(CHS)と、ヒートシンク・ベンダによって提供される熱抵抗(RHS)は、RthjC(t)に対するRHS CHSネットワークを形成します。
ピーク温度に関する上式では、複数の大電力イベントの間で発生する過渡を無視しました。ほとんどの場合、これは適切な近似ですが、周波数がかなり低い場合は、複数の大電力イベントの間に存在する時間が長く、それらのイベントの間に発生する温度過渡を考慮する必要が生じることがあります。
上記の温度計算は、温度の上昇分を参照しています。周囲温度を加えると、実際の接合部温度を求めることができます。
固有温度
シリコン製MOSFETの接合部温度は、材質の固有温度によって制限を受けます。固有温度で局所的なホットスポット(中間プラズマ)が発生することが示されてきました。ここに示すMOSFETの理論的な固有温度は370℃であり、すでに規定した反復UIS条件下では約10秒(Trise=345℃)で障害が発生します。安定状態でピーク温度が決して固有温度に到達しない場合は、デバイスは反復的なアバランシェ降伏に耐えます。
反復的短絡
あらゆるUPSシステムで、出力側の短絡テストは必須です。出力(トランスの2次側)が短絡した状態で、1次側のHブリッジ/プッシュプルMOSFETがターンオンし、非常に小さいインピーダンスで大電流を反復的に流します。この動作の結果、マイクロコントローラがシャットダウンするまでの短い期間に大量の電力損失が発生します。一般的にオン抵抗の小さいデバイスを使用するので、スイッチング損失が電力損失の大半を占めます。
単一の短絡による温度過渡
短絡条件の下でピーク温度過渡を求める手順は、前述の反復UISの例に似ています。ただし、短絡に対応する電力パルスtSCが異なります。したがって、Triseに関する前述の式(直角型の電力パルス)は適用されません。厳密な電力パルスは、MOSFETの飽和電流と寄生インダクタンスなど、回路実装によって異なります。
二等辺三角形および直角型の電力パルスに対応する温度上昇の例を(図7)に示します。二等辺三角形を10個の均等な電力と20個の時間区分に分割し、以下の個別の温度過渡式を導出します。
固有温度は、MOSFETの製造技術によって異なります。ブレークダウン電圧の低いデバイスに比べると、通常はブレークダウン電圧の高いデバイスの方がシリコン・ドーピング濃度が低くなっています。ドーピング密度が高い方が固有温度が高くなります。マウント条件は熱抵抗に大きな影響を及ぼします。熱パッドやグリスを使用する場合は、それらの熱抵抗を考慮に入れる必要があります。これらの熱容量はヒートシンクに比べると無視できるので、追加のRC熱ネットワークが不要で、単純に抵抗値をRHSに加算するだけで十分です。
結論
高速過渡で使用するK項によっても、同じMOSFETパッケージ・ファミリ内での相対的なダイ・サイズが明らかになります。
高速過渡(1ms未満)がダイ・サイズに依存し、低速過渡(1ms~1s)がパッケージ・タイプに依存すること、また安定状態での過渡がマウント条件に依存することは明らかです。同じパッケージに封入する場合は、高速過渡ではダイが大きい方がピーク接合部温度が低くなり、同じ電力パルスを供給すると安定状態での温度上昇が小さくなります。熱抵抗が小さい方が熱的特性が良好になりますが、複数のデバイスの間でのブレークダウン電圧の変動は、UISパルスの時間とエネルギーに影響します。また、ダイが大きくなるほど、入力静電容量が大きくなり、スイッチング電力損失も大きくなります。したがって、MOSFETを選択する際に、電力損失を計算して過渡的な接合部温度を導出するほうがより適切な決定因子になります。つまり、設計者は試行錯誤に頼るのではなく、熱抵抗の特性に基づき、特定のアプリケーション要件に合わせて最適なMOSFETを指定できることを意味します。
著者プロフィール
David. Lee
ON Semiconductor
パワー・ディスクリート事業部
アプリケーション・エンジニア
2009年に入社後、コンピューティングとテレコム市場におけるパワーMOSFETアプリケーションに重点的に取り組んでいる。
ミシガン大学にて電気工学士(BSEE))、電気工学修士(MSEE)を取得。