将来はACSIVEを装着したままスポーツもできるようになるかも!?
それからACSIVEの使い方として、気になる点も聞いてみた。まず、日本人が徒歩意外に最も利用しているであろう個人用の交通手段の自転車。足の動かし方が当然ながら歩行とは異なるので、バネの弾性力を解放するためのタイミングなどを自転車用に変更する必要があるそうだ(歩行用、自転車用などと切り替えられるといい)。
自動車の運転も、まだテストは行っていないという(自動車の運転は事故が起きかねないので、障がい者の方に装着してもらって簡単にテストするというわけにはいかない)。また飛行機に乗る際は、当然金属探知機で引っかかるので、脇のX線検査を通したあとに、再度装着する形になる(装身具扱い)。
また雨に濡れる程度ならまったく問題がない。関節部分にグリスが塗られていたりはするが、電子デバイスは一切ないので、壊れる心配はないのである(さすがにプールでの水中エクササイズとかには使えないが)。こうした濡れても大丈夫という特徴は、近年、日本において増えている台風やゲリラ豪雨などによる水害で、足まで水に浸かった状態で移動する時などに、少しでも体力消費を防げるように使えないかということも佐野教授は考えているとした。
先だって受動走行の話もしたが、ACSIVEをつけて走るとアシストしてもらえるのかどうかという点に関しては、佐野教授自身が試したところでは、歩行と比べるとアシストを感じないそうである。受動歩行と受動走行は、物理現象としては異なるところがあり、受動走行に関してはまだわかっていない部分があるからではないかという。そうした部分の解明ができ、誰が装着してもアシストすることができるとなれば、歩行障害のある方にも走るという楽しさを味わってもらえるかも知れない。
もしかしたら、トップアスリートが装着することで、100m走などの陸上競技で、序盤の加速が増すとか、終盤での失速を防ぐといったことができるかも知れない。トップアスリートはそうしたイメージを1度でもつかめれば、装着しない生身の状態での走りでも何らかのプラスが間違いなくあると思われるので、タイム短縮につながる可能性がある。もしかしたら将来のトップアスリートのトレーニングには、ACSIVEのようなアシスト機器が利用されるのかも知れない。
それから、Uさん自身が使っていての疑問点などだが、Uさん自身は出勤する際ももちろん装着しており、電車とバスを利用するという。満員の電車やバスの中でどうなのかというと、実はたまたま始発なので座れることから、満員電車やバスの中で不自然な姿勢でほかの乗客と密着した状態で踏ん張って立つといった経験はないのだそうだ。ただし、座っている時は、隣の人に邪魔にならないか気を遣うとはしている。
そして重要なACSIVEの装着感だが、Uさんはスネの方はある程度固定したいので、自分のスネが痛まないようサポーターを巻いてその上に固定している感じ。ただし、ガッチリ固定するほどではなく、結構ルーズだという。実はACSIVEを使うにはそれぐらいの方が良いそうで、体験者によってはヒザを固定したい人もいるらしいのだが、いざヒザを固定してしまうと、それまでのよさが失われてしまうのだそうだ。つまり、厳密にはヒトの脚部の動きと、ACSIVEの動きは一致していないというわけである。ちなみにACSIVEはウェイトをつけることが可能で、それもある程度位置を自由にできるので、装着者の歩き方に適した位置にウェイトをつけることで、アシスト効果が随分と変わるそうである。
またACSIVEの製品化に関してだが、鈴木氏によれば、もう少し改良が施される予定だという。材質の変更や、さらなる軽量化が考えられるとする。そのほか海外の展示会にも出展して非常に好評だったそうで、海外からも引き合いが増えているという。ゆくゆくは個人販売も考慮して、前述したようにスポーツ用品店などにも取り扱ってもらう方向で話を進めているとした。
製品化後の展開としては、佐野教授は、Uさんのような方からさまざまな意見が集約されてくることで、毎年とはいわないまでも、定期的にモデルチェンジしていければとしている。また、思いがけない使い方なども提示されるのではないかということで、それも期待しているという。さらに将来的には、ACSIVEの上に身体の健康管理用のセンサを追加したりするなど、プラットフォーム的な使い方ができるようにしたり、サーボモータを採り入れた電動アシストACSIVEも開発したりしたいとした。また、ロボットに関する研究にも、受動歩行を採り入れていく方向でさらに磨きをかけていき、よりインパクトを与えるようなロボットを登場させていきたいと意気込みを語ってくれた。
受動歩行と、その物理現象を応用した歩行支援機器ACSIVEに関する、今回の話はいかがだっただろうか。筆者も数年前に国際福祉機器展などで、受動歩行の歩行装置として佐野教授の研究室で開発されたもの、公立はこだて未来大学で開発されたもの、いずれも実機を見たが、こうして研究者に詳しく話を伺ったのは初めてだったので、歩行とは動作であるだけでなく、物理現象でもあるというその奥深さに衝撃を受けた次第である。受動歩行をロボットの歩行技術に応用することには非常に可能性があるので、今後のロボットの歩行方法に応用されることをぜひ期待したい。