Premiere Proの次期アップデートの目的とは
こういった背景の元でリリースに至った新機能について、アル・ムーニー氏が解説してくれた。アドビのツールは、企画段階から納品まで映像制作のすべての段階をカバーしていると語る同氏。Preludeで映像素材を管理し、Premiere Proで編集。After Effectsで3DCGなどの合成や特殊効果を追加し、SpeedGradeで色調補正を行って、Auditionで音声を取り込んだら、Media Encoderで出力する…というような流れだ。
「でも、ユーザーがすべてのツールに精通しているわけではありませんよね。ですから今年のNABでは、エディターのワークフローを最も重視しました。つまり、エディターが扱うPremiere Proに映像系ツールの機能を追加し、彼らのアイデアを実現しやすくする方向を取ったのです」。ムーニー氏はこのたびのNABで発表したアップデートの主眼をそう語る。
もともと、Premiere Proは、4K以上の高解像度素材の編集にも高いパフォーマンスが発揮できるようになっている。それはオリジナルの動画再生エンジン「Mercury Playback Engine」の威力によるものだが、ラップトップでの編集環境ですらREDカメラで撮影した4K素材が変換なしにスムーズに再生され、エフェクトや色補正もリアルタイムに反映できる。各種ツールの機能を収納するベースとしても十分と言える。
日本の放送現場にマッチしたPremiere Proのアップデート機能
「ただ、すべてのツールに精通していないとは言え、モーショングラフィックなどのエフェクトツールを使う機会はあるでしょう」。ムーニー氏は、Premiere ProのパネルでAfter Effectsで制作したモーションなどを修正できる「Live Textテンプレート」を追加した理由について、そう説明した。急ぎの修正対応が必要な場合に活用でき、また、After Effectsが苦手なエディターでも、別途ツールを立ち上げる必要がないので簡単に作業を行うことができるという。Live Textテンプレートは、素材をPremiere Proのパネルに表示し、エフェクトコントロールパネルのフィールドに直接入力すれば変更が即反映される。サンプルのような画像テンプレート内のクレジットを大量に変更する作業が多いスポーツ番組などで威力を発揮するだろう。
そして、ムーニー氏は「次に、報道映像などで活用できるマスク&トラック機能です。After Effectsの機能を新たにPremiere Proに搭載し、動く対象物に簡単にモザイクをかけることができます」と語り、引き続きデモを見せてくれた。モザイクのエフェクトを素材にドラッグ&ドロップし、レイヤーでマスクをかけ、追いかけ用のトラックを有効にするだけで、対象を追跡しながらモザイクをかけ続けてくれるから驚きだ。
しかも、マスクの形状やサイズの変更、境界線のぼかしはもちろん、同じ画面に複数作成したり、それぞれ異なるエフェクトをかけたりなどもできる。トラック機能はかなり精度が高いため、動く対象からのズレも比較的少ないという。肖像権などに厳しい日本の放送現場では大活躍する機能となるだろう。ワンクリックで反転もできるため、ドキュメンタリーやバラエティなどで位置を特定させたくない場合にも便利だ。また高解像度になることで修正の要素が増えた4Kの制作現場にも評価が高いとのこと。
上記のどちらの新機能も、煩雑な作業によって膨大な時間をかけることなく、エディターが直感的かつ効率的に作業を進められるのがポイントだ。一方、スティーブ氏は「Premiere Proで行ったエフェクトや加工情報は保持されるので、もし時間があって、After Effectsの専門家がいる場合には、素材をAfter Effectsに送ってクオリティを上げる作業も簡単にできます」とつけ加えた。