周囲の期待と本人の行動との関係性が明らかに
横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 准教授 服部泰宏氏 |
次に、横浜国立大学の服部泰宏氏が、アルーとの産学連携で行われた先行調査結果の報告を行った。服部氏はまず、プロジェクトにおけるシニアの定義を、
・50歳以上
・ホワイトカラー
・ラインの長ではない
・正社員および嘱託社員である
とし、次のようにコメントした。
「『シニア』という言葉にポジティブやネガティブな意味を持たせずに機械的に定義をした。シニア人材というのは、決して例外的ではなく、どこの企業にも数多く存在している」
職場におけるシニアというのは、上司や部下、同僚、後輩などという組織内での関係性によって多重な役割を担っており、微妙な立ち位置にある。服部氏が行った、9社123名のシニア社員とその周囲の人間を対象にした企業内アンケート、そしてシニア200名を対象としたインターネットリサーチからは、「シニアの実際の行動」と「周囲がシニアに期待する行動」のフィット度合いと、そのフィット度合いが「職場の業績・活性化」に与える影響、さらにはフィット度合いと「シニアの心理」と「シニアの実際の行動」との関係性が明らかになった。
「シニアへの周囲の期待と本人の行動の役割のフィット度合いについては、後輩や同僚、上司に対しては一致していることが望ましいが、部下に対しての場合は自分のまた上にも上司がいることを踏まえて考える必要があるだろう。具体的には、状況によって自分の上司がやっていることを補完することが望ましいと考えられる。例えば、厳しい上司であれば自分はより部下に近い位置にある上司として優しく接するといった具合だ」
そうした周囲の期待度と本人の実行度合いについての認識の相関性を示すのが、服部氏らが開発した「役割フィット・インデックス」だ。この役割フィット・インデックスを使い今回の調査結果を分析すると、周囲から期待されていることについては本人の実現値もかなり高いものの、上司の補完という部分に関しては少しフィット度合いが落ちることがわかった。また、シニアの心理面でプラスの影響をもたらすのは他者への許容度であり、一方で世代継承性や熟慮性についてはマイナスの影響しか生じないことも判明した。
「上司としての役割についてはシニア自身の上司との補完、その他は周囲の期待との一致がキーワードとなる。シニアの行動は職場に様々な影響をもたらす可能性が高いが、どの指標に対して影響するかはフィットの中身によって変わる。メンタリティについては、『他者への許し』が重要となる。今後、シニア人材が職場ひいては産業社会の中でどのような役割を果たすべきなのか──答えはまだ出ていないが、『補完』と『一致』の概念がそうした議論の方向性を示してくれるのではないか」と服部氏は問いかけて壇を後にした。
アルー インストラクショナルデザイン部 橘和宏氏 |
産学連携プロジェクトのシニア人材活性化プロジェクトにおける最初の企業パートナーであるアルーのインストラクショナルデザイン部、橘和宏氏は、プロジェクト立ち上げに際しての実務的な問題意識について見解を述べた。先細りする国内消費やグローバル規模での競争激化により、経営の合理化が進められるなか、ラインのポストにつかないシニア人材が大幅に増加している。そうした非ライン管理職のシニア人材の活性化が企業競争力を左右する大きな要因となることから、同社はプロジェクトへの参加を決めたという。
シニア人材活性化の第一歩となるのが、シニアと周囲の期待との密な期待調整だ。しかし、それには大きな壁が2つあると橘氏は指摘する。
「1つは周囲からの期待内容が非常に曖昧で思い込みに偏りがちなことだ、そうしてもう1つは心理的な抵抗感。そこで、シニアが周囲からの期待を客観的に振り返るためのフィードバックを意図的に生み出す必要がある。それにより、職場の期待と自らの持ち味ややる気の接点を発見することが可能となるだろう。自らの行動を考える起点を、自己キャリアでもなく、組織役割でもない、より身近で具体的な周囲期待に置くことが大事なのではないか」(橘氏)
こうした意識のもとアルーでは、良質なフィードバックを意図的に生み出すしかけの1つとして、周囲からシニアへのフィードバックツールを企画・開発中だという。現在α版が既に開発されており、数社のシニアが活用している。
「いただいた意見を踏まえて改修の後、正式にリリースする予定となっている。今後、フィードバックツールなどの提供により、シニアの活躍・活性化を支援していきたい」と橘氏は述べて自身の解説を締めくくった。
また、キックオフ会の後半には、来場者とのグループディスカッションも行われた。ディスカッションは、グループに分かれ、シニア人材活用に関する課題感をポストイットに列挙した後に課題のグルーピングを進めていった。
来場者が参加するグループディスカッションも実施 |
グループ発表であるグループは、シニア人材は多いものの個人ごとに体調や意欲などに差があるのに対して、企業には能力やキャリア、やる気に応じた精度が存在しないことを問題視。職場の異動や能力開発についても個々の状況ごとに対応できる精度が必要なのでは、と提案した。また別のグループは、モチベーションの問題が大きいため、どうやってモチベーションを向上するのかを課題として掲げた。
最後に服部氏が登壇。次のように語り会を締めくくった。
「シルバー人材活性化の議論では、最終的にはいつも組織や社会などの構造的な問題に帰結する。ただし、個別からでもできることはあるのではないか。マクロとミクロの両側面から今後もプロジェクトに取り組んでいきたい」