基板上の占有面積
非常に単純なケースを除き、異なるプロトコル、電圧、性能のそれぞれに対応するためには複数種のクロックが必要になります。クロック・ツリーにつながる各構成要素で実現したい機能は端的に説明できるものであり、通常は個別の製品として提供されます。ここで、それぞれの構成要素に対して個別のクロック・デバイスを用意するのは、コストや基板上の実装面積、消費電力の面で現実的ではありません。そのため、タイミング・デバイスのメーカーは、単一のパッケージに多数の機能を統合した製品を開発しています。これは、最適な基板設計が行えるよう支援することを目的とした方策です。ただ、どの製品が特定の要件を満たす機能を最適な組み合わせで備えているのかということがわかりにくいところが難点です。また、コスト、占有面積、消費電力、性能の間のトレードオフにおいて、それぞれの優先順位は設計ごとに異なる可能性があります。
タイミング・デバイスのメーカーは、多様な製品の提供が、最適なソリューションにつながる可能性と、混乱の原因になる可能性の両方を秘めていることを認識しています。そこで、多くのメーカーは、クロック・ツリーの構築ツールや、知識の豊富なアプリケーション・エンジニアによる開発支援サービスを用意することによって、設計ごとの要件に応じたソリューションを提供できるようにしています。必要なすべての製品を提供できるメーカーと連携すれば、デジタル技術を専門とする基板設計者が、親和性がないことが多い複数のソリューションを組み合わせる必要はなくなります。
時間領域ジッター
時間領域ジッター(Time-Domain Jitter)とは、クロック・エッジの位置のずれのことです。一般的なオシロスコープによってクロックを観測すれば確認することができます。一方、隣接するクロック・エッジの間という非常に短い時間に観測されるジッターはサイクル間ジッター(Cycle-to-Cycle Jitter)と呼ばれます。サイクル間ジッターは、クロック・パルスが短すぎるとセットアップ/ホールド時間の違反が生じるデジタル・アプリケーションにおいては重要な要素です。また、周期ジッター(Period Jitter)はより長い時間観測を行うことによって得られるもので、データ・リカバリ・アプリケーションにおいて重要な意味を持ちます。周期ジッターが過度に大きいとアイ・パターンにおけるアイが閉じてしまい、ビット・エラー・レートが高くなるからです。いずれのジッターも、設計上の目標値とタイミング・デバイスのデータシートとを比較すれば問題の有無を確認することができます。一般に、タイミング・デバイスのメーカーは自社のWebサイトでパラメータ検索ツールを提供しています。それらを利用すれば適切な製品を容易に選択できるようになっています。
消費電力
従来のタイミング・デバイスは、単一の電源で動作し、プログラマブルな機能はほとんど備えていない単純なものでした。そのため、消費電力(または消費電流)については、データシートには1つの条件下における値しか記載されておらず、非常に簡単に比較することができました。また、その消費電力によって生じる熱は、エアフローやヒート・シンクがなくてもデバイスのパッケージによって十分に放出できるレベルのものでした。したがって、そのデバイスの熱について計算する必要はありませんでした。
残念ながら、最近のデバイスでは位相ノイズを低下させるための回路が増加して集積度が高まったことから、消費電力は増加しています。そのため、アプリケーションごとに、消費電力の計算と熱解析という複雑な作業を行わなければならなくなりました。最近のタイミング・デバイスの多くは、柔軟性が高く、使用しない機能があればその分の電力を消費しなくて済むようになっています。また、個々の回路に対し、アプリケーションの環境に適した電源電圧で電力を供給することが可能になっています。
この問題に対するサポートとしては、デバイス用の構成(コンフィギュレーション)ツールが提供されています。このようなツールを利用することによって、基板設計者はタイミング・デバイスの設定を容易に行うことができます。それだけでなく、適切に構築されたツールを使用すれば、特定の基板と使用条件に応じた消費電力と接合部温度の概算値を得ることも可能です。