1.企画と表現のプラスマイナスな関係
ビッグアイデアが出たあと、それをどうやってユーザーが気持ちいいと感じるものにしていくか、そして、どうやってアイデアをアウトプットとして定着させていくかという、企画とデザインの両方から説明していただいた。
岩田 : 「普遍的な価値」というものは、昔感じた原体験のような気持ちよさというか、言語化できるようなことではなくて、人間誰しもが理屈ではなく心地よさを感じるものです。これは必ずあるはずだと信じていますし、自分が携わる企画におけるコミュニケーションのツボみたいなものが何かということも考えるようにしています。
Webサイトは表示されて0.3秒で瞬間的にジャッジされてしまうと言われています。ですから、ユーザーにおもしろいと思わせるためにはインサイトが必要なのです。 Webサイトはターゲットにどれだけ深く突き刺さるかが勝負。Webキャンペーンではゲリラ的な戦いだと考えています。
――SNSが出てきたことによって、情報の伝わり方も変わったように思うのですが。
岩田 : せまいけれど深いコミュニケーションができるようになりましたね。しかも、そこから情報が波紋的に広がっていく。コアなユーザーから周辺のユーザーに広がっていくという現象が見られます。そういう奥底にあるファンの気持ちよさというものがインサイトだったりするわけで、僕自身はアイドルにまったく詳しくないのにも関わらず、アイドル案件を担当した際は、どこにファンは気持ちよさを感じているのかを知るために、ずっとそのアイドルの曲を聴いていました。
ConceptConception* Inc. アートディレクターの小野清詞氏 |
小野 : 言語を超えるための要素とは…と考えていった結果、人間に普遍的にある価値や思い出なんかがインサイトなんじゃないかなぁと思っています。 皆さんも海外のWebサイトを見ることがあると思いますが、言葉はわからないけれど、いいなと感じることはありませんか。そういうサイトは、おそらくインサイトを意識しなければつくれませんし、多くの人たちの共感を得られる可能性を持っています。
――実際にインサイトにタッチしていると感じたアイデアが出ることはありますか。
岩田 : このアイデアはいけると思うことはあっても、インサイトにタッチしているかどうかはその瞬間はわかりませんね。ブラッシュアップしていく過程で、どうやってそういったものを取り込んでいくかであり、アイデアは脳ミソをどれだけクラクラさせるかといった瞬発力が重要じゃないかと思います。
小野 : 僕はこのアイデアがいけると思ったことはまずありません。というのも、自分を信用していないから。自分を疑い続けろというのが持論で、穴を見つけたら、そこを埋めていくということが自分の成長につながると思っているからです。自分を疑い続ければ、何かがもっとよくなって、これ以上に面白くなるはずだと。
基本的に人を驚かせたり、喜ばせたりするのが楽しい。料理をふるまっておいしいと言われるのも嬉しいですね。それに、「ありがとう」と言われたい。それをするために、ひたすら自分を疑っているようなものです。
――アイデアを出すために日々していることは何かありますか。
小野 : 3画面を開いて仕事をしています。ヘッドフォンを片方につけて音楽を聴き、正面のモニターとスピーカーではDVD。右のモニターでYouTubeを検索し、左のモニターでデザインをしているといった具合。人から「おかしいんじゃない?」ってよく言われます。
情報をまわすというのを自分の頭の中ですることを心がけていて、一目でひっかかったものを重視して「今のすごい」とか、自分の脳みそにどんどん刺激を与えていくんですよ。それで右耳が空いている時に電話までしたり。人生ザッピングみたいな状況。あと、1年間に絶対52冊本を読むのを16年間続けています。
岩田 : 僕はそれほどインプットしませんね。ただひたすら書く。どんどん書いて、頭の中のメモリーを空けていって、その余白でこれとこれをくっつけると面白いとか、書き出したことや思い出したものを組み合わせたりするのを脳内でしています。 アイデアを出す時も、とにかく書いてみて、気づかなかったヒントが書いたものの中から見つかることもあります。そういう時には比較的アイデアが出やすいようです。
――企画とデザインのバランスについてお話しいただけますか。
岩田 : 訪れてくれた人には、おもてなしのポイントをいっぱい作ってあげたいと考えます。しかし、デザインにする時はシンプルに届かせるべきで、少し整理して言語的にちゃんと説明するのではなく、デザインとして何を達成したいかを筋道立てて置いていきます。
小野 : 僕はプランナー兼アートディレクターのような立ち位置なんですが、言葉ではなく、絵でディレクションするような感じです。企画は調子づくと、あれもこれも盛り込みたくなることがあります。しかし、伝わる要素とか量は決まっていると思うんです。それによってWebの形も変わっていくべきじゃないでしょうか。 商業デザインはシンプルさが美しいとされる部分もあり、必ずしも企画をすべて反映させる必要はないですね。盛り込みすぎるとデザインは機能性を失い、説明しすぎると絵解きになってしまう。そしてどちらもつまらなくなります。