また、デジタルサイネージだけではなく、クーポンを落とすためのアプリにも工夫が施されている。3月18日に両備グループへ入社したバーチャル社員「七葉院 まゆせ」をアプリの案内人に据えた「まゆせチャンネル」と呼ばれるアプリをダウンロードすることでクーポンが受け取れる。「七葉院 まゆせ」は「たま駅長」を考えた小嶋氏の"次の一手"だという。
アプリはバスの運行情報も配信されるため、クーポンを受け取るためだけではなく、バスの利便性向上にも繋がる。"まゆせちゃん"の案内と共に、楽しくアプリを利用できる取り組みが行われているわけだ。
スマートフォンアプリのみの提供となるが、最近では地方もスマートフォンの普及が遅れているといったこともなく「実証実験路線は幅広い年齢層が利用している。2万人程度の参加者が見込めるのではないか」(説明員)としていた。
位置測定の新技術「位置指紋」
一方で、実証実験の段階であるため一部で課題も見えた。デジタルサイネージに利用されていた13インチの液晶モニターは、視野角が狭く、やや下から見上げるだけで見づらくなっていた。「実証実験であり、安価なソリューションを組むために採用した。実験を通して見づらいといった声があれば、今後の課題として対処していく」(説明員)という。
また、バスなどの公共交通機関ではFeliCaを利用した運賃支払いシステムが普及しており、NFCをトリガーとしたアプリ起動、自動クーポン配信なども期待されるが、今回の実証実験では導入が見送られている。「全ての端末にNFCチップが搭載されているわけではないので、採用を見送った。今回は、デジタルサイネージをきっかけとした、バスの中の遊休時間を利用することに焦点を絞った」(説明員)のだという。
実証実験を通して課題を解決していくのは当然の流れともいえるが、KDDIでは実証実験だからこそできる取り組みも行っている。その取り組みとは「位置指紋技術」と呼ばれるもので、年明け以降にアプリへ組み込む予定だという。
Wi-FiのSSIDやそれぞれの電波強度などから大まかな現在位置を測定する方法がすでに存在しているが、この「位置指紋技術」は3G/LTEの電波でおおよその位置を測定する。
これまでも、端末が掴んでいる複数の電波強度を三角法を利用して3G/LTE基地局の位置情報と合わせておおよその位置を測定する方法が存在していたが、今回の「位置指紋技術」では、電波の波形によって位置を特定するという。
アプリでクーポンを利用する際に「もぎる」という動作が必要になるが、この動作を行う際に電波波形を取得するという。事前に参加店舗で電波の波形を取得しておき、それに酷似した波形であれば「このお店でもぎった」ということがわかるようになる。
3G/LTEの電波は環境に左右されやすく、「手に持つ」「かばんに入れている」といったスマホが置かれている環境の違いで波形は異なってくる。この点について説明員は「多くのお客様が"もぎる"のは、その店頭であると考えている。ユーザーがクーポンを利用することで、データベースとして蓄積していくため、端末が置かれている環境の違いもデータベース化できると期待している」と話した。
KDDIの東海林氏は会見の最後に「これまでのデジタルサイネージはポスターや看板と中身は大して変わっていなかった。リアルタイムで発信できるという新しい形のO2Oは、地域密着型であるからこそできる」とも語り、改めて同ソリューションに対する自信を見せていた。