会場からの支持で優劣が決まる目立てば勝ちのアーキテクト部門

続いて、今回初めて設けられたアーキテクト部門。同部門は、最初にも述べたが、組込みシステム開発の中級者、製品・サービス企画開発へのチャレンジをしたいチーム・個人が対象だ。見た人に「すごい!」と思わせる製品を考え、動くものとして作り上げる能力を問う部門である。1チームずつトライする形で、会場での審査がポイントとなる。どれだけ、観客に「おぉ~!」とどよめかせられるか、「へ~」とうなずかせられるかといったことが高得点につながるのである。2月に開催された説明会のレポートも読んでいただくとわかりやすいと思う。

競技内容は走行体を最低1体は使う形で、あとはさらに走行体を使ってもいいし、さまざまな機器を持ち込んでもいい。危険物や公序良俗に反するものでなければ、OKである。走行体の1体はデベロッパー同様にベーシックステージを走って第4中間ゲートを必ず通過し(第1~3中間ゲートは通過しなくてもいい)、それからパフォーマンスステージで自由にパフォーマンスをするという形だ(画像44)。どんな内容かの説明も行うので、プレゼンテーション能力も問われる。

総合評価の仕方は、審査員が企画書の内容を見て事前審査をする「企画書審査(製品企画の良さ)」が100点満点、審査員が当日のパフォーマンス内容を見て企画書内容と一致しているかどうかを審査する「企画書とパフォーマンスの一致性(製品を実現する能力)」が100点満点、ゲストの特別審査員と観客から選ばれた一般審査員が当日のパフォーマンスを見て評価する「当日のパフォーマンス(見た人に「すごい!」と思わせたか)」が200点満点の、合計400点満点で順位付けを行う。当日のパフォーマンスは、特別&一般審査員100人に2個のウチワが渡されているので、「すごいね」と思ったら2個、「いいね」と思ったら1個、「う~ん」だったら上げないという具合で、上げられたウチワの数をウチワの会(実行委員の人たちだが)がカウントして得点とする仕組みだ(画像45)。

画像44(左):アーキテクトのコースレイアウトとパフォーマンスエリア。画像45(右):特別審査員と一般審査員の心をつかめるかつかめないかがアーキテクトのポイント

また、競技時間だけでなくセッティングや片付けなどにも制限時間が設けられており、制限時間の超過なども減点対象となる。各制限時間は、最初の準備のシステム設置時間が2分間、競技そのものの時間が2分間、システム撤収時間が1分間となっている。なお、初日は2チームが棄権となり、4チームでの勝負となった。また2日目は、1チームが棄権となり、4チームでの勝負となった。

アーキテクト部門

Aブロック(初日)

優勝:松浦Lab-Arch(芝浦工業大学 ソフトウェア)358点(80点/100点/178点)(画像46)
準優勝:ロボPlus(東海大学・情報通信学部・組込みソフトウェア工学科)212点(80点/25点/107点)(画像47)
3位:UNITEDパンダ7(日立超LSIシステムズ)177点(60点/25点/92点)(画像48)

Bブロック(2日目)

優勝:KEFU(富士通コンピュータテクノロジーズ、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科) 158点(60点/0点/98点)(画像49)
準優勝:NID-J(エヌアイデイ 情報システム事業部) 146点(40点/40点/66点)(画像50)
3位:Tiefs51(TDCソフトウェアエンジニアリング) 93点(80点/0点/13点)(画像51)

画像46(左):松浦Lab-Archはスイカを模した紙風船を取り出し……。画像47(中):ロボPlusは走行体にカメラパーツを追加装備する装置を用意し、見事に被せることに成功し、撮影も成功したがアップロードはできなかった。画像48(右):UNITEDパンダ7のモチーフはシンデレラ。シンデレラ役の走行体は2台あり、王子様役の走行体が到着すると、みすぼらしい姿のシンデレラ走行体が家に隠れ、反対からドレスアップしたシンデレラ走行体が出てくるという仕組み。惜しむらくは、やり直しで時間切れになってしまったこと

画像49(左):KEFU。小型ロボットたちが整列。Bブロックには早大チームもおり、早慶対決が行われ、慶応の勝利。画像50(中):NID-J。大きな赤いリボンを着けた女の子役の走行体と、男の子役の走行体がデートをするというストーリーだったが、最後まで行けず。画像51(右):Tiefs51は、福祉・介護がデーまで、フィールドで待っている走行体を走ってきた走行体が案内して連れて行って上げるというものだったが、案内役の走行体が迷子に

Aブロックの1位となった松浦Lab-Archは、会場が一体になれるエンターテイメント系の仕組みを用意。最も会場をどよめかせた回数が最も多く、当然、特別審査員+一般審査員のポイントが非常に高かった。さらに、企画書通りにパフォーマンスを実現できて満点を取ったことも大きかったようだ。

2位のロボPlusも会場のどよめきを誘っていた。走行体がパフォーマンスエリアに到達した段階でお手製のカメラパーツを頭部に被せるというメカを用意してあり、きちんとそれを成功させたあと、撮影も行った。ただし、ブログへのアップには失敗してしまったようで、その点が惜しかったところである。

3位のUNITEDパンダ7のストーリーは、王子様とがシンデレラを探しに行くというもので、きれいになる前のシンデレラとドレスアップしたあとのシンデレラの2体の走行体を使って表現していた。惜しむらくは、ベーシックステージの走行で1回失敗してしまって、やり直しためにすべてのパフォーマンスを制限時間内に見せられなかったことだ。ちなみにここのチームも東京地区大会名物のチームの1つで、毎年選手がパンダのかぶり物をして出てきていたが、今年はパンダの着ぐるみまで登場(画像52)。やっぱり、上司が「今年はパンダの着ぐるみを用意しろ」という指示を出しているのだろうか?

画像52。UNITEDパンダ7はパンダの着ぐるみを投入

Bブロックの1位となったはKEFUの内容は、特別審査員などにウチワをもってもらって(採点用途は別で、▲が描かれている)、それによって全部で7台ある車両型ロボットが斜めに一直線に並んだり、2列に並んだりというパフォーマンスを見せるというもの。

2位のNID-Jは、男性を模した走行体が、女性を模した(大きな赤いリボンが着けられている)走行体とデートするという内容で、女性の走行体のあとを男性の走行体が追尾していくというものだった。最後まで行き着けず、ベンチの前でまったりする2台を見られなかったのは残念。

3位のTiefs51は、2位のNID-Jと似ていて、題材は介護だが、1台の走行体がもう1台の走行体を案内して上げるというもの。こちらも案内役がコースアウトしてしまい、当初の予定通りに進まなかった。

アーキテクト部門は、両ブロック通して見て、やはり今年が1回目ということもあって、なかなか難しかったようである。企画としては評価されているのだが、特に2日目は企画と当日のパフォーマンスの一致性がとても低く、予定通りにはいかなかったようである。しかし、その中でも松浦Lab-Archは400点満点中の358点というわけで、かなりの高評価。実際、すぐにでもソーシャル系のゲームにできそうなほどの完成度で、楽しそうだった。

また、惜しかったのが、Bブロックで事前のリハーサルではかなり評価の高かった、任天堂のゲームの「スーパーマリオブラザーズ」をモチーフにしたという「WireWolf」(MathWorks)が、ペアリングがうまくいかず、走行体を走らせられなくて棄権となってしまったこと(画像53)。せっかくなのでどんな感じなのかということで披露されたのだが、最後はちゃんと花火が上がるのもLEDで表現したりして、ちゃんと成功していたら「お~!」というのは確実だったので惜しいところである(画像54)。

画像53(左):セッティング中の様子。手前の自走車はヨッシーをイメージしているという。画像54(右):最後は、LEDの花火が爆発するはずだった

というわけで、CS大会出場は各ブロック以下の5チームずつに決定した。

Aブロック

  • 松浦Lab-Arch(アーキテクト部門優勝)
  • ARASHI50(デベロッパー部門総合優勝)
  • チーム六文銭(同準優勝)
  • 品川レーシング(同3位)
  • 飛べ! ぼくらの夢ヒコーキ(同4位(競技部門1位、モデル評価B-))

Bブロック

  • 追跡線隊ICSイエロー(デベロッパー部門総合優勝)
  • Project VDM(同準優勝)
  • 追跡線隊ICSレッド(同3位)
  • チームc3is2013(シー・キューブド・アイ・システムズ)(同4位(競技部門6位、モデル評価B-))
  • チームUltraQさま(同5位(競技部門15位、評価B-))

Bブロックはアーキテクト部門が振るわなかったため、アーキテクトは一切なく、デベロッパー部門のみの選出となった。なお、デベロッパー同様に他地区のアーキテクトの状況だが、確認できた限りでは、南関東が「とりっくすたー(((゜Д゜;))))(日立アドバンストデジタル)」が315点で優勝。南関東は2位も275点、3位も253点とレベルが高そうである。東海は「FUJIDREN(富士機械製造)」が320点で優勝。九州地区は「SDCバンビーズ(佐賀電算センター)」が334点で優勝している。地区大会はもちろん各地区の審査員がそれぞれ審査するため、一概に比較するのは難しいが、CS大会で優勝するためには400点満点中で300点以上を獲得するのはいうまでもなさそうだ。350点オーバーを出せるとかなりいいのではないかと思うが、どのチームもぜひ面白いものを期待したい。

なお、松浦Lab-Archだけ記事で紹介してしまうと、他地区もUSTREAMなどで中継しているとはいえ、不利になってしまうかも知れないので(実行委員会は問題ないということだが)、やはり驚きがあることが高得点に結びつくので、極力写真や説明文は控えさせてもらった。

というわけで、ETロボコン東京地区大会レポート、いかがだっただろうか。地区予選の比較なので何ともいえないのだが、デベロッパー部門は今年こそ東京地区代表が、みたいな感じがするのだが、パシフィコ横浜には魔物が棲んでいるので(笑)、こうご期待、というところである。また、全国のアーキテクトの代表もどんなパフォーマンスを披露してくれるのか、楽しみだ。

北海道から沖縄まで全国11地区のツワモノたちが集結するそのCS大会は11月20日(水)に競技会、翌21日(木)にモデリングワークショップが開催されるスケジュールだ(ET2013(組込み総合技術展)が20~22日に同じくパシフィコ横浜で開催)だ。