Photoshopは魔法ではない、リアリティのためには素材作りが重要
3人目のゲストは写真家でありレタッチアーティストでもあるErik Johansson氏。若い頃からPCを使うことと絵を描くことのふたつに強い興味を持っていたという同氏は、今ではその延長線上で「カメラを用いて"存在しないものを写す"」という創作活動を行っている。
その作業は主に3つのステップで行われるという。第1ステップでは、アイデアを出して撮影や制作のプランニングを行う。第2ステップは素材集め。ここでは出来る限り多くの写真を撮る。第3ステップは集めた素材をパズルのように組み立てて具体的な形に表現すること。
最もクリエイティブなのは最初のステップで、アイデアを得るために常に物事を普通と違った見方をするように心掛けているという。例えばハサミで家を切ってしまったらどうなるか、それを絵画として表現するためにはどのようなプロセスが必要か、そういったことを常に考えているそうだ。そして実際に目に見える形の物を作って撮影するために必要な素材を集めていく。リアリティを得るためにはまず写真でちゃんとした素材を作ることが不可欠だという。
最後のステップではPhotoshopを使うが、「Photoshopは決して魔法のツールではないので、良い作品を作るためには良い素材が不可欠。そして良い素材を得るためにはプランニングが重要になる」とJohansson氏は話す。そして、その最後のステップの一例として、具体的な作品作りの手順を説明した。そのひとつを写真で紹介する。
注意すべき点として、重要なのはPhotoshopを使うテクニックではなく、あくまでも適切な素材を集めて想像力を巡らせることだとJohansson氏は改めて強調している。この作品も、手元に用意した素材を巧みに組み合わせることで現実味のある作品に仕上げている。そして最後に、「大事なのは想像することです。想像できることであればクリエイションできます」と語った。
心を開いていれば色々なアイデアが生まれる
4人目のゲストはビジュアルエフェクトスーパーバイザーのRob Legato氏。『アプロ13』(1995年)、『タイタニック』(1997年)、『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)などの映像効果を担当した人物でである。
最初に紹介されたのは、印象に残る映像を作る方法について。現実の映像を見せるよりも、観客が見たいと思っている映像を再現したり、記憶に残っている場面を集めたりする方が、印象的な映像になることがあると同氏は語る。そこで『アプロ13』では、どういう映像が必要なのかをスタッフに聞いて回り、それを異なる見せ方で映像化して使用したという。実際の撮影は、身近にある様々な道具を駆使して行ったそうだ。
『タイタニック』では、ジェームズ・キャメロン監督が実物を撮影した映像と、Legato氏がモデルを使って撮影した映像を巧みに切り替えて使っているという。例えば探査船が海底に眠るタイタニック号に近づくシーンでは、実際の映像とモデルを使った映像の両方が使われているが、どちらが実物でどちらがモデルなのか一見して判別することは難しい。このシーンについてLegato氏は次のように語っている。
「最初に監督に(実物の)映像を見せられたときに激しい衝撃を受けました。そのとき自分が感じたものを、どうにかして聴衆にも見せたいと思いました。タイタニックでは、常にそのことを念頭に置いて様々なシーンを撮っています」
続いて、新しいアイデアのインスピレーションをどこから得ているかという話に移る。斬新に思える多くのアイデアは、過去のアイデアを再利用したものだという。昔の人が考えた素晴らしいアイデアの一例として、1900年代初期に撮影されたカラー映像や、ジャンプカットを活用したGeorges Meliesの映像などが紹介された。『ヒューゴの不思議な発明』の撮影では、チャップリンなどの過去の映像作品で使われた撮影方法を取り入れているという。
そのほかに、過去の映画のシーンなどからインスピレーションを得て映像にしたこともあるとのこと。たとえばヒューゴの中で機関車がホームに突入してくるシーンは、一枚の写真からインスピレーションを得て映像化したそうだ。また、映画『グッドフェローズ』(1990年)の長回しシーンに触発されて作ったヒューゴのシーン(5つのセットで撮影したものをつなげて長回し風に演出したもの)を紹介した。
「インスピレーションはどこから湧いてくるか分かりません。心を開いていればろいろなアイデアが生まれます。映画の場合は、昔の人々がいろいろなアイデアに挑戦しているので、そこから多くのインスピレーションをもらうことができます」(Legato氏)
なお、アドビのSenior Vice President兼General ManagerであるDavid Wadhwani氏によれば、このプロジェクト「Creative Voice」の取組みは、今後も継続して行われ、一部はCreative Cloud上でメンバー向けに公開される予定とのこだ。