色々なところで使われている円周率「π」
また黄金比以上に有名な、学校で習う無理数に円周率「π」があるが、この話もいくつも紹介された。指輪のリングは3.14で作られていて、砲丸投げ用の砲丸を製造している日本の企業では3.141592653(小数点以下9桁)の精度で作っていて、タイヤメーカーは企業秘密で教えてもらえないが、おそらくは10~15桁の間だという(画像9)。小惑星探査機「はやぶさ」は、3.141592653589793(小数点以下15桁)の精度で計算されて小惑星イトカワと地球の間を往復した。3.14で計算すると、3億kmの移動で15万kmもずれてしまうそうである(画像10)。
画像9。円に見えても、ものによって精度は変わる。この中ではタイヤがおそらくは最も高精度で作られているものと思われる |
画像10。はやぶさの移動ルートは、小数点以下15桁で計算された。その精度じゃないと、小惑星イトカワと地球を往復することは不可能 |
ちなみに、円周率はこれまで日本人が自作PCで10兆桁を算出してギネス記録だったが、2013年3月14日(円周率の日)に、米サンタクララ大学のEd Karrels氏らの研究グループが小数点以下8000兆桁目まで算出したことがニュースになっている(ギネス記録に認定されるのかどうかまでは本稿執筆時の2013年4月4日時点では不明)。10兆桁もものすごいが、小数点以下に数字が8000兆個並んでいるというのは目がくらみそうな数値である。
個人的にπの話で面白かったのは、その中にあらゆる情報が含まれている、という桜井氏が唱えている見解。例えば自分の誕生日を西暦から8桁で表すと、19690531(筆者の誕生日、もう少しで44歳)という感じだが、10兆桁の中にこうした8桁の数字なら誰の生年月日であっても見つかるという。実際、桜井氏が自身の誕生日を検索してみせると、複数回出てきていた(画像11)。ちなみに筆者が原稿執筆に際して手に入れられた100万桁の円周率で検索してみたところ、19690531は残念ながら出てこず、100万桁は少ないということがわかった。
さらにいうと、πは無限に続く数字なので、その中には、例えば聖書の内容が1字1句間違うことなく、必ず連続した数字として入っているというのだ(文字列を数値に変換する必要はある)。もちろん聖書だけではない。古今東西あらゆる出版された書籍や雑誌の文章、Webメディアの記事、個人のサイトの情報やブログの内容、さらには手描きの日記や古文書、教科書、筆記したノート、それらの落書き、これまでこの世に誕生したすての人類の遺伝情報などなど……。つまるところ、今、あなたに読んでいただいているこの文章ですら、筆者が書く前から、書き終わったものがすでにどこかπには含まれいているというのだ。
さすがに10兆桁では見つからないのではないかと思うが、新ギネス記録となりそうな8000兆桁なら、「デイビー日高はライター」ぐらいの短いけど、意味のある文章なら日本語でも読み取れるかも知れない。それが「無限」となったら、確かにまだ発売前すらされていない長編小説の内容がまるまる入っていてもおかしくないのである…! かくも、無限とはすごい存在というわけだ。もしかして、πを筆頭にeなどの対数、ルート2など無理数はみなアカシック・レコードなのではないだろうか? となんかビビっと脳に来てしまったほどである。
黄金比と並び、美しいものの中に見出される「白銀比」
そして第2部のキーワードが、黄金比と並ぶ無理比である「白銀比」の話。1:ルート2(1.141421356……)のことをいい、これまた美しいものの中に見出される比率なのである。白銀比は相似形を作り出す数字で、コピー用紙やノートなどでお馴染みのA判やB判も、すべて白銀比である(画像12)。日本は古来より白銀比を文化の中に採り入れており、茶室には至る所に白銀比があるそうだし、能の舞台にも白銀比があるし、五・七・五の俳句までもが1:1.4:1で白銀比に近いのである(画像13)。桜井氏は、世界でも最も短い文学のスタイルである俳句がなぜ美しいのかがわかった時、非常に感動したという。
そのほか、第1部・第2部通して、どれだけ拡大してもデコボコのない究極の直線は頭の中にしか存在しない(原子レベルまで拡大すれば絶対にデコボコする)、同じく「幅ゼロ」の直線も頭の中にしかありえない、数学はフェルマーの最終定理のように300年も天才たちが研鑽に研鑽を重ねてやっと解けるような難しい問題を考えた人が一番偉くなれるとか(数学は問題を探し出す学問)、桜井氏自らが編み出した2桁×2桁の簡単な計算方法やどんなに大きな数字でも連続した100の数字の足し算で簡単に答えを導く方法(画像14・15)、また日本は数学大国であること、これだけしっかりとした数学の教科書があってそれで勉強している国は世界でも数えるほどしかないといったことなど、感心することしきりな話が披露された。
ともかく、講演をまるまる収録してお伝えしたいところだが、それは難しいので、詳しくは桜井氏の著作をご覧いただきたい。確実に、数学に対する見方が変わるはずだ。桜井氏によれば、数学は人が生きていくために必要なことから生み出してきたものであることを理解してほしいという。大航海時代、航海術として必要なことから生み出されてきたものなのだ。また、数学は、世界のすべてを支える土台であるということも覚えておいてほしいとした。