RILACの本体となる6基の「加速(共振)タンク」

そしてその次に続くのが、RILACの本体である6基の「加速(共振)タンク」である(画像18~21)。このタイプの加速器は「可変周波数ヴィドレー型」という。仕様は、周波数レンジは18~45MHz、周波数可変機構はショート版およびトリマーを採用し、全加速電圧は16MV、MAX M/qは8000/f2、全長は40mだ。

この6基のタンクが、重イオンの加速の中心的な役割を果たすのである。加速タンク1基のサイズは、長さ3m、幅1.8m、深さ3.3m。レーストラック型をしており、これがGARISや検出器のある部屋へ向かって6基直線上に並んでいる。

またRILACは、通常のイオン線形加速器がパルス運転であるのに対し、連続運転が可能なため、平均ビーム強度が非常に高いという特徴も持つ。これにより、鉄やカルシウムなど、いくつかのイオンで世界最大強度のビームを供給できるのである。

画像18。6基が直線上に並ぶ加速タンク。これがRILACの線形加速器としてのメイン部分だ

画像19。加速タンクの1つ(2番タンク)。フロアからだと手前の機器に囲まれているので、タンクが見えづらかったりする

画像20。地下1階から見た加速タンク(2番タンク)の下部

画像21。地下1階の様子。加速器室は2層構造になっている。やはり機器類が所狭しと設置されている

加速タンクの内部構造は6基とも同じで、まず上端に「高電圧側ドリフトチューブ」が取り付けられた長さ2m、幅0.5mの「中心導体(ステム)」が立つ。共振高周波は音叉と同じように、ステム下部が振動せず最上部が最大電圧で振動する高周波で、波長はその4倍になるという特徴を持っている。そこで周波数可変にするため、タンク内壁とステムの両方に接触する「可動ショート板」を取り付け、それを上下に動かして共振高周波の波長(周波数)を変えているというわけだ。

ただし、実際は若干異なり、ステム上部に取り付けられ、そのドリフトチューブの間にアース側のドリフトチューブが並んでいて、両者の間隙に生じる高周波電場で重イオンを加速する仕組みである。加速タンク内は高真空になっており、また、アース側ドリフトチューブ内には、イオンビームを集束させるため4極電磁石が収納されている構造だ。

113番新元素合成のために1秒間に照射される亜鉛-70の量は約2兆5000億個

この6基の加速タンクで必要な速度を得て、隣の部屋でGARISへと突入、最終的に検出器に新元素が到達するのかというと、実は違う。113番新元素合成の際に重イオンビームとして使われている亜鉛-70は、光速の10.27%という速度(秒速3078万8685.4366m/s)まで加速させられるのだが、可変周波数RFQとRILAC加速タンク6基では間に合わないのだ。

そこでRILAC加速タンクの次に追加設置されたのが、6基の「CSM(Charge-State Multiplier:電荷増殖型)タンク」だ(画像22・23)。これは、東京大学原子核科学研究センターの協力によって開発されたものである。

このCSMタンク、2基ずつ形状が異なっており、最初の2基は上背が非常にある。ただし、RILAC加速タンクと比べると、総じて小型のようだ。なおこのCSMタンクはRILAC加速タンクと同様に6基あるのだが、すべてが加速器室に収まっているわけではない。最後の2基は隣のGARISや検出器がある部屋にあるのだ(画像24)。なお、CSMタンクは、性能的にはRILAC加速タンクとほぼ同程度だ。

画像22。CSMタンクの手前の2つ。一般公開の見学コース側から

画像23。反対側から。背が低い3基目・4基目も右側に見えている。画像提供は理研

画像24。隣の部屋に設置された、CMSタンクの残り2基。こちらも1、2基目と比べると背が低い

それではもう1つのGARISや検出器のある部屋へ(ちなみにこの部屋、扉に放射性標識があり、稼働中は入れない(画像25~27))。加速器室からこの部屋まで直線で延びてきたラインが、ここで初めてカーブする。2回ほどカーブした後に分岐して、外側の方がGARIS(画像28)につながっていく(画像29の通りで、内側のコースはさらにカーブを何度か繰り返して、RRCのある施設へと向かう)。GARISの内部の詳細な構造は、画像30の通りだ。

画像25。稼働中は安全のために人は入れない。放射性標識が貼られている

画像26。こちらは加速器室ほど広くない。しかも、ギリギリ人が通れるようなところも多い

画像27。部屋のおおよその全景。画像の右下側にあるのがGARIS(の一部)で、左上にあるのが、CSMタンクの5、6基目

画像28。GARIS。森田准主任研究員が設計、開発した、検出装置のキモ

画像29。画像7と同じものだが、RILACの設備の構成図を再度掲載

画像30。GARISの内部の仕組み。ノイズの原子核をコースアウトさせるなど、直線的ではない構造にも意味がある

そしてGARISの前部にあるのが、重イオンビームがターゲットに照射される「回転式標的装置」である(画像31)。ここにセットされるターゲットが、直径30cmの円盤だ(画像32)。

この円盤の外周に近い部分に16個の長方形(実際には外周に沿って弧を描いているが)の窓があり、ここに真のターゲットである元素(今回ならビスマス-209)の薄膜が取り付けられる。そしてこの円盤は、毎分3000~4000回転というすごい勢いで回転し、重イオンビームの照射にさらされるというわけだ。

なぜこのような仕組みになっているかというと、ビームが非常に強力なため、回転させて空冷しなければならないからだ。なにしろ、1秒間に照射される亜鉛-70の量は約2兆5000億個にもなるのである。だから、毎分3000~4000回転という勢いで回転させて、空冷しているというわけだ。ちなみに回転させないでいると、あっという間にターゲットが溶けてしまうそうである。

画像31。ビームは照射されていないが、実際に回転中のところを撮影。亜鉛-70の重イオンビームは、もちろん円盤面に対して垂直方向から照射される

画像32。ビスマス-209を貼り付ける(外周の黒い部分)ターゲットの円盤。これが毎分3000~4000回転する。一般のクルマのエンジンなら、結構回している感じ

理研 和光研究所 仁科加速器センターの重イオン線形加速器「RILAC」などの写真スライドショーはこちらから→