理化学研究所(理研)は9月26日、前日に行われた113番新元素(仮称ウンウントリウム(ununtrium:Uut))の3例目となる合成成功と新たな崩壊経路(画像1)に関する記者会見に続き(記事はこちら)、理研 和光研究所 仁科加速器センターの重イオン線形加速器「RILAC(Radio Isotope Linear ACcelerator)」など、その検出で活躍した施設のプレス向け公開を実施した。

画像1。3例目の検出となった113番新元素は、これまでの2回とは異なる、6回のα崩壊チェーンという経路だった

理研は、年1回の一般向けの施設公開を行っており、その時もRILACや気体充填型反跳核分離装置「GARIS」のある仁科センター リニアック棟の一部には入ることは可能だ。よって、見学したことがあるという人もいることだろう。しかし、今回取材するこれらの装置がある施設は、放射線管理区域であるため、取材したいといっても通常はそうそう簡単に入れない施設である。

しかも、現在も113番新元素の「4例目」の検出を目指して重イオンビームを飛ばしている真っ最中であり、本来なら1分でも多く装置を稼働させたいところを、数時間にわたって停止しての公開が実施された形だ。

さらにホストを務めてくれたのは、理研において、113番新元素など超重元素の合成プロジェクトを担う仁科センター 森田超重元素研究室の責任者で、この道20年という、森田浩介准主任研究員(画像2)である。

113番新元素の合成に関する話や、今後の超重元素合成に関して、またRILACなど設備のアップグレードなどの話も聞かせてもらったので、それと合わせてこの貴重な機会の模様をお届けしよう。

画像2。自らが設計したGARISの前で説明する森田准主任研究員

広大な敷地で、さまざまな最先端研究を進める理化学研究所

理研 和光研究所は、東京メトロ有楽町線・副都心線および東武東上線の和光市駅から歩いて20分ほどの、東京外かく環状道路(外環)と川越街道バイパス(国道254号線)のちょうど交差点(理研の名が冠せられている)にある。

こう書くと、まだ訪ねたことがない人や敷地内の案内図(画像3)を見たことがない人は、研究所という名称もあって、交差点のそばに巨大な1つの建物が建っているようなイメージをしてしまうかも知れない。しかし、実際にはそんな「規模の小さな」ものではない。

画像3。理研公式サイトの和光研究所の理研施設案内図より抜粋(本来は、番号ごとに施設名が紹介されている)。今回見学したのは、(8)の仁科センター ライラック棟

敷地内へ入れる西門がその交差点のそばにあるというだけであって、研究所の実体は、1つの小さな町か、大型の総合大学のキャンパスのようなもの。広大な敷地内に、いくつもの研究施設が建っており、冗談でも何でもなく、エリアごとに何丁目とかつけてもいいぐらいに広いのだ(いくつかの道路にも、○○通りと、町のように名前がつけられている)。

画像3の案内図にある通り、仁科加速器センターはそんな広大な敷地の中でも東地区に属している。道中には、今回訪問する仁科加速器センターがRILACなどと同様に管理・運営している円形加速器「リングサイクロトロンRRC」の重イオン(ヘリウムよりも重い元素のイオンはすべて重イオン)ビームによって作出されたサクラの新品種「仁科乙女」(画像4)が植えられている。

そしてその背後に展示(永久保存)されているのが、理研の4基目のサイクロトロンとして1967年から1990年まで活躍した「160cmサイクロトロン」の電磁石部分(画像5)だ。

画像4。「山形13系敬翁桜」に重イオンビームを照射して突然変異を起こさせて作出した仁科乙女

画像5。理研の4基目のサイクロトロンとして、1967年から1990年まで活躍した160cmサイクロトロンの電磁石部分

そしていよいよ今回見学する、仁科センターの施設の1つであるリニアック棟だ(画像6・7)。今回見学したのは、イオンビームを加速するメインエリアの加速器室、森田准主任研究員が開発したGARISおよび検出器(実際にはGARISの一部)などがある部屋、そして加速器制御室(画像8)とそれに隣接するGARIS計測室(画像9)などがある。

なお、このRILACやRRCなど、1基の線形加速器、5基のサイクロトロンなどで構成されている仁科加速器センターの中核施設を「RI(Radio Isotope)ビームファクトリー(BF)」(画像10~12)と呼ぶ。

画像6。仁科センター リニアック棟の外環。この中に今回見学した装置がある

画像7。リニアック棟の各種装置の配置図。公式サイトより抜粋

画像8。加速器制御室

画像9。GARIS計測室の機器の数々

画像10。RIBFの案内図。公式サイトより抜粋

画像11。RIBFの模型全体図。画面中央(模型のエリアとしては左上)の背がほかよりも高い施設がRILACだ。面積的にほかの加速器の施設よりもかなり小さい

画像12。RILACの模型の拡大図

理研 和光研究所 仁科加速器センターの重イオン線形加速器「RILAC」などの写真スライドショーはこちらから→