ひとりで映像制作ワークショップに通った
――小橋さんの自分探しは、どのように映像制作へと繋がっていったのでしょうか。
小橋「ひとり旅で自分の見た景色だとか、体験したリアルな感じを他人に伝えたいと思い、映像を撮っていたんです。それを友達に見せたいと思ったのですが、そのまま見せても仕方ないので、映像編集を独学で学びました。銀座のアップルストアの無料映像編集講座にも通いましたね。これも俳優時代にはできなかった、リアルな体験のひとつです。そうして、自分で映像を3分ぐらいに編集して、音楽をつけて友達に見せたら意外に好評で、その流れでファッションブランドのPVやイベントの映像制作なんか手掛けるようになったのです」
――その後、どのようなきっかけでドキュメンタリー映画を監督することになったのでしょうか。
小橋「この映画にも出演している高橋歩さんのトークイベントを観に行ったことがきっかけです。高橋さんとはその時が初対面だったんですが、その日の夜に『今度、車椅子のオヤジとアメリカのルート66を旅することになった』という話を聞いたんです。そこで、思わず『その旅に同行して映画撮らせてください』と言っていたんです。もちろん映画を撮ったこともないし、編集ができるといっても、映画の作り方はわからない。でも、その旅の話を聞いてワクワクしたので、どうしても撮りたいと思いました。高橋さんと話していて、『この旅では、絶対に色々な事が起きる、自分でなければ撮れない』という確信がありました」
「この旅は自分でなければ撮れない」と確信
――それからどのように話が進んでいったのでしょうか。
小橋「旅の主人公となるCAPさんを北海道の実家まで訪ねて、承諾を得ました。それから旅行前に1カ月間CAPさんの自宅で共同生活をしたんです。その時、CAPさんを間近で見ていて感じたのは、障害を理由に夢を諦めて20年間ひきこもっているCAPさんと、感情を殺して俳優を続けていた自分に重なる部分があるということでした。実際に旅に出て撮影していても、自分がCAPさん自身になってしまったかのような感覚を味わい、泣きながら撮っていた時もあります。この映画のタイトル『DON'T STOP!』にしても、CAPさんに対しての言葉というだけでなく、『止まるな。この旅を映画に絶対出来るはずだ。完成させるんだ』という自分に対する気持ちでもあるんです」
――「障害者の旅を追うドキュメンタリー」と聞くと、むやみにエールを贈る安易な感動ものになってしまいそうですが、本作はとにかく笑えるしピースフルな作品でした。
小橋「出発前はCAPさんと高橋さんの男同士のかっこいい旅を想像していたのですが、70代のCAPさんのお母さんや高橋さんの友達まで付いて来て、10人以上のキャラバンとなりました(笑)。参加者は、ほとんどみんな初対面だし、不安要素ばかりだったのですが、テーマを決めつけないで、旅で起こることを全て受け入れて、動物的感覚で視点を変えながら撮ろうと思っていました」
――障害を持ったCAPさんの姿だけでなく、みなさんの姿が描かれていたのがよかったですね。アメリカでCAPさんのお母さんが味噌汁を作ったり、仲間たちが川で釣りをするとか。
小橋「旅の途中、どうでも良い場面が、どうでも良くない気がして、撮り続けていたんです。ああいったシーンの積み重ねがあったから、この映画は成立しているのだと思います」
こらからも最適な方法でアウトプットしていきたい
――これからも小橋さんは映画を作っていくのでしょうか。
小橋「全く未定です。俳優として復帰するのか、また監督をやるのかよく聞かれるのですが、正直まだわからないですね。ただ、撮るテーマを探して監督を続けるようなことだけはしたくないですね。何か伝えたい事が出てきたときに、自分にとって最適な方法でアウトプットできれば良いと思ってます。ただ、ここ数年の休業期間に、自分の中にずいぶんインプットされたものが溜まってきたと思います。『今、役者をやったら以前とは違って、かなり面白いだろうな』と、自分でも思いますね」
撮影:国領雄二郎