海洋ロボットの影響を受ける有人潜水船
「しんかい6500」改造の背景には、AUV(自律型無人潜水機)、ROV(遠隔操作無人探査機)が、飛躍的な進歩を遂げ、有人潜水船のライバルとして台頭してきたことがある。海洋研究開発機構は、これら海洋ロボットの開発にも力を注いでおり、利用目的に応じた使い分けが進められている。
AUVは、自律的に航行しながら、広い海域をしらみつぶしに調査して情報を集める目的、例えば海底地図作成などに適している。一方、ROVは、海底近くのポイントにとどまるマニピュレータ作業などに向く。今回の改造は、ROVの推進システムの影響を受けており、従来AUV的な動きを得意としていたしんかい6500が、ROV的な動きもこなせるようになったと言える。
今後のしんかい6500は、初めて調査する海域への潜航や、潜航時の行動をその場で決めなければならないような、有人ならではのミッションに特化していく。調査のポイントや目的がはっきりとしたミッションは、AUV、ROVに任せていくことになる。
各国で活気づく有人潜水船開発
2012年の4月末、2002年の運用休止以来、再稼動可能な状態で保存されていた「しんかい2000」が、水族館で外部展示されることが決まり、再稼動を完全に諦めるという決断が下された。同時にそれは、未来を目指した胎動が始まったことを意味すると考えられる。
現在、海洋開発研究機構では、浅海探査中心の透明なアクリル球殻を持った潜水船と、深海探査中心の「しんかい12000」という2種類の有人潜水船の開発が検討され始めている。
「しんかい6500の建造から二十数年が立ち、当時現役で活躍されていた開発者が定年を迎えようとしている。今、そうした人たちが在籍しているうちに技術を継承しておかないと、日本で有人潜水船を作れなくなるかもしれない。特に、超高圧の深海でバラストタンクに海水を出し入れする特殊ポンプの技術が失われることを心配している」(同)。有人の潜水調査には、肉眼で見ることによる圧倒的な情報量、人がその場で判断を下せる臨機応変な対応などの調査的メリットに加え、深海という特殊な環境を肌で感じて理解しているエキスパート人材が育つという、何ものにも変えがたいメリットがある。
「ROVオペレーションでも、潜水パイロットは格上の扱いを受けている。モニタ画像を見てのマニピレーション操作でも、遠近の把握能力が高く、失敗が少ないからだ。また、もう少しで濁りが来るという直感が働くなど、オペレーション全体のタイムロスも少ない傾向がある」
近年、海底の金属鉱物資源、エネルギー資源に注目が集まるなか、中国が、7000m級の有人潜水船を就航させる計画を推進している。それが刺激となり、アメリカ、フランス、ロシアなどの海洋先進国で、長らく停滞していた開発プロジェクトが再び活気づこうとしている。映画「アバター」「タイタニック」のジェームズ・キャメロン監督が、自ら設計した潜水船で、水深1万1000mのマリアナ海溝チャレンジャー海淵に潜航したことも記憶に新しく、フロンティアとしての深海が脚光を浴びる時代が到来した。地震国という特殊事情から、有人潜水調査船の先進国であり続けている日本でも、開発を再検討する時期が迫っていると感じる。