バイスプレジデントのマイケル・マイロ氏に聞く
―― まず、ワールドワイドなUPS市場の動向や、トレンドの概要を聞かせてください。
マイケル・マイロ氏(以下、マイロ氏)「主要な顧客層は"ビジネス"ですが、比較的容量の小さなUSB製品はSOHO環境のニーズが増えています。
大きなトレンドは、サーバーの仮想化とクラウドコンピューティングですね。これらがUPS市場にも影響を及ぼしています。中規模から大規模な企業、そしてデータセンターやエンタープライズ領域では、UPSの大型化が進んでいます。1台の物理サーバーを仮想化するなど、1つ1つのハードウェアの重要性が高まっており、これまで以上に"保護"する必要性が高くなったからと考えています」
―― 安全性や信頼性を高めるために、余力のあるUPSを導入するということでしょうか。
マイロ氏「例えば、物理的な5台のサーバーを使っていたところが、パワフルな仮想化サーバーに置き換えるケースが増えています。その結果、UPSのバッテリパックを余分に購入したり、UPS自体を多重化するのです。UPSが稼働する場合の"ランタイム"をしっかりと確保するわけですね」
―― 日本独特のUPS市場、トレンドなどはありますか ?
マイロ氏「一言でいえば"高品質"への要求が非常に高いですね。発煙や発火といった火災防止の要件、長寿命なバッテリなどです。世界的に見ても日本の要件は高く、"煙"の検知回路や冷却ファンといったように、品質の高い部品を使っています。新モデルのSmart-UPSシリーズも他国の市場では発売済みですが、より品質を高めてから日本で提供することになりました」
―― 日本の電力インフラは比較的安定していますが、他国の市場と比較してUPSの導入に影響はあるのでしょうか。
マイロ氏「日本では、UPSは"保険"の意味合いが大きいですね。たとえ電力インフラが安定していても、保険として必要と考えられています。
2011年には計画停電が実施されるなど、IT機器の電源を保護することがいかに重要か、日本のユーザーが強く意識するようになっています。日本のように成熟した市場では、停電するとビジネスに多大な悪影響があり、それを日本の皆さまは知っています。ですので、保険としてのUPSが今まで以上に見直されていると感じています。
同様に、関心と需要も高まっています。2012年の夏は、2011年よりも電力が逼迫するともいわれています。我々も声を大にして、UPSを導入する利点をアピールしていきたいと考えています。停電によるビジネスの損失は、UPSの導入コストとは比較にならないほど大きいですから」
―― 新しいSmart-UPSシリーズには液晶パネルが搭載されて、いろいろな情報をUPS本体だけで確認できるようになりました。やはり"情報把握"の要望が大きかったのですか ?
マイロ氏「UPSの状態を知りたいというご要望は多くいただきました。例えばバッテリの交換時期についてですが、複数台のUPSを導入している企業では、バッテリ交換は大きな"設備投資"です。UPS本体からバッテリの交換時期を能動的に知らせることで、交換時期が明確になり、予算の確保や準備に余裕を持てるようになるでしょう。もちろん、使用中の電力量といった情報へのニーズも高く、こうした情報も液晶パネルで確認できます。
また、液晶パネルと合わせて、従来モデルと同じLEDも残しています。データセンターの中を歩いていて、UPSのLEDが"緑"なら大丈夫、"赤"なら要確認といったように、一目ですばやく分かるというニーズですね」
―― UPSは企業向けのイメージが強いと思いますが、欧米では家庭で導入するユーザーも多いと聞きます。
マイロ氏「そうですね、雷対策や電源バックアップが多く使われています。特にエネルギー管理機能を持っている製品で、UPSのマスターコンセントにPC、マスター連動コンセントにプリンタなどの周辺機器をつないでおきます。すると、PCの電源を落とすと周辺機器の電源も切れるような、半自動的な省エネ管理ができます。
それとAV機器、スマートTV、モバイル機器などでしょうか。ハイエンドなAV機器のユーザーは、高品質な電源を得るためにUPSを利用するケースがあります。また、ホームルータをUPSにつないでおけば、停電してもインターネット接続を保つことができます。近年は在宅勤務が増えており、電気が止まると仕事も止まってしまいます。
ユニークなところでは、魚の水槽、ロシアの電気ヒーター、排水用のポンプなどにUPSを使っているユーザーがいます。冬のロシアで電気ヒーターが止まると、命にかかわりますからね。魚の水槽も同じです」
―― 日本の家庭ですと、UPSの導入はまだまだ少ないのが現状です。
マイロ氏「確かに日本の家庭ではUPSの導入例は少ないのですが、日本はエレクトロニクスが非常に発達しています。あくまで一例ですが、ゲームのプレイ中にいきなり停電したら大変ですよね。そういった細かい面でも、日本の家庭でUPSが普及していく可能性はあるのではないでしょうか。
UPSを使うことで、家庭でもエネルギーを管理できます。ソフトウェアやクラウドアプリケーションを使って、エネルギーをマネジメントできるメリットを伝えていきたいと思っています」
新しいSmart-UPSシリーズのエントリーモデル「APC Smart-UPS 500 LCD 100V」(SMT500J)。価格は49,245円。用途と使い方にもよるが、家庭で導入するならエントリークラスを中心に検討するとよい |
―― 日本では省エネや節電が叫ばれて久しいのですが、「マネージメント」という観点はあまり語られていません。
マイロ氏「効率的な使い方をすることで、かなりの節電が可能です。もっとも効果的なのは、必要ないときは使わないこと。そういう身近な情報を発信していきたいですね。当社のSmart-UPSシリーズ、サージ保護、管理ソフトを組み合わせることで、エネルギー管理を楽に実現できます」
―― 電気代を具体的に見ることもできますよね。そういったコスト面のほうが、日本のユーザーにとっては説得力があるかもしれません。
マイロ氏「Smart-UPSシリーズのソフトウェアでは、実際に使われている電力の消費量をリアルタイムで見ることができます。さらに、電気代、CO2削減量、"何本の木を守れたか"といった指標に変換したり、どの装置でどれだけの電力を消費したのかも分かります。
新しいSmart-UPSシリーズを使っていただくことで、エネルギーを最大限に有効活用できるようになります。さらにスマート、インテリジェンスになったSmart-UPSシリーズは、皆さまに恩恵をもたらすものと考えています」
最後に1つ補足すると、UPSはいわゆる「蓄電池」とは少々異なる。停電時のバックアップ電源という意味では同じだが、UPSは「接続した機器を安全にシャットダウンするための時間を稼ぐ」のがメイン機能だ。UPSのスペックを見て「電力供給の時間が短い(バッテリ容量が小さい)」と思うかもしれないが、UPSとは本来そのような機器である。ただ、ここで紹介してきたシュナイダーエレクトリックのSmart-UPSシリーズのように、最近はバッテリ容量の大きいUPSも増えてきた。UPSのバッテリ容量と、接続する機器の合計消費電力によっては、かなりの長時間駆動が可能だ。家庭での導入を考えているなら、事前にしっかりとシミュレーションすることをおすすめしたい。