まずターゲットとなる価格であるが、「モデルとか構成、数量によって変わる」としつつ、ローエンド(つまりZynq-7010)では「50ドルを切る金額」という話であった。これはなかなかに挑戦的というか、Artixと思いっきりぶつかる設定な気がする。これを訪ねたところ、「Artixを選ぶかZynqを選ぶか、というのはCPUのProcessing powerが必要か否かで判断することになる」という返事であった。Zynqの場合、チップ単体の価格はともかく周辺に最低でもDDR2なりDDR3のメモリが必要だし、パッケージもやや大きい。なので、MPUは要らないが省フットプリント性がほしいという場合はArtix、パッケージサイズにゆとりがあるとかMPUのパワーが必要、といった時にはZynqという分け方を同社としては薦めて行くようだ。

また、以前のラインナップ表にもあったとおり、Zynq Z7000ファミリはどのモデルもCPU側(Xilinx用語で言うところのProcessing System側)は全く同じである。これに関してはMonboisset氏に確認したが、「Zynq Z7000ファミリに関しては、別のコアを搭載したり、あるいは構成を1Pとか4Pなどに変更するといった事は全く予定していない」と明確に答えてくれた。ここで敢えてコアをローエンドからトップまで一切変更しないことで、ソフトウェアのポータビリティが増し、結果として幅広い用途に使ってもらいやすくなる、というのがXilinxの狙いだそうだ。

ただCortex-A9はMCU向けというよりもMPU的向けのコアであって、パフォーマンスが過剰ではないのか?という質問に対しては、「もしパフォーマンス過剰なら、動作周波数を100MHzとか10MHzとかに落として使えば良く、そうすれば省電力にもなる」とした上で、例えばMCUが必要ならば同社は既にMicroBlazeという極めて広範に使われている、XilinxのFPGAに最適化されたMCUコアを持っており、これをFPGA側にインプリメントして使えば十分と考えていると説明。また、Cortex-R系のコアのニーズもあるのでは?と尋ねたところ、「Processing SystemをAMP構成として、非常に小さなリアルタイムOSを片方のコアで動かせば良い。内蔵している256KBのOn-Chip Memory(Photo02参照)にこうしたリアルタイムOSは十分入るし、この場合レイテンシは最小に抑えられるから、レスポンスタイムは短くなる」という見解を示した。ちなみにCortex-M1のインプリメントは「可能だが最適化はされておらず、パートナーからの要求もない」そうである。

省電力に関しては、Zynq-7000全体でClock Gatingは当然行っており、Processing System側も利用していないモジュールは自動的にClock Gatingが実施されるうえ、内部の電源プレーンが2つ(Photo02で薄水色の部分と黄色の部分)に分かれており、例えばFPGA側の処理が不要ということであれば、FPGA側の電源供給を止めるということで更なる省電力化が可能という話だった。勿論この場合、FPGAを再度立ち上げる場合にはConfigurationのやり直しが発生するが、これはProcessing System側から行えるという話であった。

またWindows On ARMに関する対応に関しては「Windowsに関しては既にパートナーと取り組んでいるが、最初のターゲットはWindows Embedded Compact 7になる」とした上で、Windows 8をインプリメントする上での障害は無いが、今のところアプリケーションを開発しているパートナーからはWindows 8への要求は上がってきていないと説明した。現在はAndroidのほか、LinuxをSMP/AMPの両モードで動作させており、また、まだ公式にはアナウンスしてはいないが、μITRONのインプリメントを検討しているという。

もう1つ面白いのが性能に関するものである。Photo02に再び戻るが、通常CPUとFPGAは間にAMBA Switchesを経由して通信を行うが、それとは別にACP(Accelerator Coherency Port)と呼ばれるものが新設されている。これはFPGAとCortex-M1のL1キャッシュを直接接続するもので、これによってCortex-A9とFPGAの連携を極めて少ないレイテンシで実現できるとしている。「このACPという言葉、どっかで聞いたことがある」と気が付かれた読者は鋭い。AlteraのSoC FPGAがやはり同じくCPUコアとFPGAを接続するInterconnectにACPという名前を当てているからだ

ただ厳密に言えば、AlteraのSoC FPGAに利用されているACPは、FPGA Fabricとの間にL3 Interconnectが挟まる形になっており、完全にZynq-7000と同一の構造かは現時点では断言できない(Zynq側のACPのインプリメントがまだ明らかにされていないため)が、これはなかなか面白い符丁とは言える。

それにしてもである。Zynqの「ローエンドで50ドル未満」というのは、Artixなどのマーケットとも競合しやすいのも事実だが、それよりも他のARM搭載マイコンが持っている/狙っているマーケットをターゲットにしている感が非常に強い。例えばFreescaleが2011年11月に発表したeMPUなど、丁度Zynqが狙えそうなエリアである。I/Oに関しては、PHYまで含めて搭載しているのはごく標準的な通信関係のみだし、アナログに関してもAMS(Agile Mixed Signal)がサポートしているのは1MSPS/12bitのADCとこれに対応した17chのMultiplexerが2組だから、それほど多いとは言えない。その代わり、ローエンドのZ-7010ですら30K Logic CellのFPGA Fabricを搭載しているわけで、ここで不足な周辺回路を構成してしまえば済むという考え方もある。I/Oも3.3VのMulti-Standardが100pinあるから、これで不足することは考えにくいだろう。Monboisset氏も価格について「20ドル未満とか30ドル未満、40ドル未満といった価格帯は考えていない。Zynqはあくまでも50ドル未満から上のマーケットを狙っている。だからあなたが持っているデジタルカメラ(コンパクトカメラ)にはZynqは入らないと思う。が、車載のドライブアシスタンスとか複合型プリンタなどのマーケットには十分いける」としている。

ちなみにZynqの開発ボード(Photo13,15に出てきたZC702)のお値段は1000ドルを切る位だそうで、これも格安と言えば格安だが、個人で買うにはちょっと高すぎる。一応Monboisset氏に「個人利用向けに、メザニンコネクタでなくピンヘッドが出てる開発ボードを500ドル未満で出してくれたら俺が買う」と伝えては見たが、果たして実現するか。ただ個人で使いたくなる様な価格と構成であることは間違いない。