Q:装置メーカー側も淘汰が始まっていて、最大手のApplied Materialsがさまざまな装置メーカーを買収したりとか、450mmウェハへの移行が始まってさらに脱落したりとか。
私もよく知らないんですが、この間IBMがニューヨークで450mmウェハをやる為の新しいAllianceを始めるという事が発表されました。あそこに参加しているのは、実際に使うかどうかはともかくとして、つばをつけるというか、研究として始める所まではきっとやるん…でしょうかね? まあ、使う使わないの判断が、早く決着が付く事になったという事なのかも知れません。そのあたりは私は良くわかりかねますね。
Q:どちらかというと、次世代露光技術のEUVが遅れに遅れているのが、相当問題になってくるかな、と。ArF液浸も今Tripple Patterning/Fourth Patterningと、異常な世界(笑)になって来てますし。
そうですね。でも色々な話を聞いてますと、NANDとかDRAMとかやられてる方々はもう露光技術に関してはここしばらくあまり懸念というか、限界感が無くなってしまったって感じがしますね。まだいくらでも行けるんだと。何世代それでやるつもりかはよくわかりませんが。
Q:問題はロジックですね。話が元に戻りますが、現在とりあえずSRAMとロジックが課題で、次がDRAMかなと思うのですが、それ以外の分野で先程Opticalの話は伺いました。で、それ以外の可能性というのは?
フラッシュメモリに関しては学会発表に関して言えばかなり数が出てますので、その意味ではフラッシュメモリ、それとパワートランジスタ。パワートランジスタの場合は、多分SOIではなくBulkの方で。最初にDELTAを開発した時のターゲットにしてた1つが実はパワーデバイスだったんです。で、もう1つがコンピュータ用のチップ。これがターゲットとして思い描いた夢のチップ(笑)という感じだったので。
Q:それはそのDELTAの構造だと幅を広く取れる分いっぱい電流を流せるからという事ですね?
パワーデバイスは圧倒的にそれです。で、Wが稼げる、というのでも大きいです。
Q:パワーデバイスに関しては、現在はSiではなくSiCとかそういう方向ですよね?
それは電流以外の、耐圧の方の制約ですね。やはりそこが大きいので。ただパワーデバイスの場合、結局、高電圧を求めてる分野と、マーケットで言うともっと下の、今はPowerMOSが抑えている分野があって、そちらの方がマーケットが圧倒的に大きいので、そこはもしかしたら狙える分野が残っているのかな、と思ってます。高電圧のほうは多分苦手というか、なかなか大変だと思います。特に微細化すると難しいんじゃないか、と。
もう1つがコンピュータ用、つまりメインフレーム用のデバイスです。丁度そうしたものを研究されている方が当時かなり居ましたので、そういう人達と一緒にコラボレーションすると、そういう形で考えておりました。
Q:ちなみに採用はされたんでしょうか?
メインフレームとしても、その先ができるんだというのを書くための研究ですね。実は中央研究所ですと当時、メインフレーム用のCMOSが非常に大きな議論の的だったんですよ。つまりBi-Polarから乗り換えることが出来ますか? という話。当時の一番の問題点は、CMOSだと電気駆動力が足りなくて、メインフレームのスピードが出ないと言う事でして。で、そこにDELTAを当てはめて計算すると、メインフレームをCMOSで作る事ができるという論文とかを出させて頂いたんです。
Q:日立は結局、結局CMOSに移行されましたよね。そこにDELTA入っていた?
あれはまだ入ってないです(笑)。将来的には、という話で。ご存知の様に、メインフレームはBi-PolarからCMOSに切り替えた時に、結局性能が一回落ちているんですが、今度は数を増やすことで性能を上げました、と。そういう絵を描いたので。もし当時FinFETが開発されていれば、それを使って性能そのままで移行できたかもしれないんですが、残念ながらそれほどの微細化はできませんでしたので、と言う事になります。
Q:もしそれがうまく行っていれば、それが最初のFinFET搭載製品になったかもしれなかったんですね?
ただ事業として、量産品として作るという所に、多分当時のプロセス技術では絶対行っていなかったと思いますので、まあ本当に夢物語なんですが。ただ、単体と言いますか、デバイスの性能として比較すると、やはりCMOSでもメインフレームでBi-Polar相当のものができるという、そういう絵を描く事は出来る計算をしておりました。
Q:ところで日立は、昔はともかく今は自前では(ロジック系の)半導体を作っていない訳で、そういう意味では研究所で技術を開発されれても、実際に製造はルネサスだったり、そのルネサスも先端プロセスは自前でやることを辞めて、段々こう現場から遠くなっている感じがするんですが、その辺りは如何なんでしょう?
そこは不幸というか幸いというか、研究所は元々が事業部から離れていたというのがありまして、例えばFinにしても、小さくしてスイングを立てて、とかバラつきを減らしてとか、そういうかなりメカニズムに則した所を研究するんだというスタンスでずっとやって来ていました。そういう意味では、電気産業が半導体をまったく使わなくなるという事はありえない訳なので、今後はちょっと使う対象は変わってくるかもしれませんが、ずっと見ていかなければいけないものだというのは、基本的と言うか本質的には変わらないと思ってます。
Q:その場合、どの様な形になるんでしょう? 研究されたものは学会などで発表されて、それをいくつかのメーカーさんと共同で製品に落として行くみたいな形になっていくのでしょうか?
今ですと例えば光関係ですとか、スイングを立てましょうと言っていたものですとか、他にも例えばパワーデバイスとか色々な物をやっているのですが、それぞれに応じて、多分社内での適用の仕方を変えていく必要があるので、それによってどうやって出して行くかって言うのは違う選択をする事になると思います。
Q:あくまで日立の中央研究所ですから、まずは日立ありきなのでしょうが、外部に出して行くという選択肢も?
ありです。そういう意味では半導体が事業として無くなっているというか、分けているので、選択肢としてはありうるという考え方で行けると思ってます。
Q:丁度IBMが、自分たちのラインは自分達の成果を確認する為の物であって、あくまで、それでビジネスする為では無いですよと言うのと似たような?
研究所のラインは、もう元々がそういうスタンスで作られてますので、逆に言うと事業はちょっと無理です(笑)。もちろん、悪く言えばテクノロジーが無いので、厳しいというのも場面としては出てきますが。ただ私としては選択肢が広がって、色々なものに貢献できるという風に思ってます。
Q:将来的には、可能性として色々なファウンドリと一緒に共同で何か作るという、そういうのも有りなんですね。
例えば回路とかを研究とかされている方の場合、もうファウンドリは当然のように共同でやられている訳ですし、そういう意味ではファウンドリも1つの選択肢です。もちろん自社でやっている奴もありますので、そういった所とやるというのも1つの選択肢という事だと思います。
Q:またちょっと今後の話になるのですが、10nm未満になるとどうなるんでしょうか? 今ですら、すでにゲートの絶縁膜が原子1個分とか2個分とかのオングストロームレベルになっているわけですよね。
すごいですよね。まあ、本当の意味で新しいものがその時は必要になると思いますけど、それは我々研究所ができるチャンスというようにも思います。
Q:デバイスを製造するメーカーは、そうした事をやっている余裕も無いですので。
いや、でも多分色々な研究者の方が暇になってる(笑)と思いますので、いよいよ真面目に考え始めているんじゃないかと。
Q:それはつまり、アイデアを出すまでやる事が無いから?
というか、各社とも先端Vehiecleとかを皆さん止められちゃったじゃないですか。なので、色々考えて、策を練られて、いいアイデアが出て来るんじゃないかと期待したいんですが。
Q:力技だとやっぱり材料変えちゃえって話になるんですが、材料を変えるとプロセスどうするんだって話が必ずつきまといますし。あとSiが非常に癖の無いデバイスだったんで、他の材料にすると色々と凄まじく面倒になる。
そうですね。今もロードマップ委員会などで、III-V属とかGeなどのデータは見せてもらうんですが、Siと比べてすべての項目で辻褄が合っているものは出てこないですね。どこか特徴的な所だけで見れば、「あ、このデバイスすごい」というか「この材料すごい」というものがあるんですが、すべての項目を満たさせようとすると、ちょっとなかなか厳しいというのが本当の所だなあ、という気がします。
Q:あと大口径化をどうするかという話にもなってきていますし。
その辺は多分、私よりも皆さんの方が良く知ってると思いますので、教えて頂ければと思います。ただ2~3年前のITRSの委員会で、ウェハメーカーの方が、450mm化がどういう事になるかというプレゼンをされたのですが、その方が一番最初に示された写真は450mmではなくて、その次の600mm。もちろん、それはイメージというか合成写真なんですが、こんなになる(と手で示す)んですね。それを見てから450mmの写真を見るとと、「あ、もしかしたら出来るかな?」と(笑)
あのプレゼンはうまいなぁ、と思いましたね。(600mmは)本当こんなお盆みたいなもので、「これはねえだろう」と思わせといてから、これ(450mm)なら「あんまり300mmと変わんないじゃないか」。いやほんと、450mmで怯えている方に、600ミリの絵を見せると言うのが、本当に良いアイデアだと思いました。
ということで、あまりFinFETとは関係ない話に大分脱線しつつ、1時間ほど久本氏にさまざまなお話を伺うことが出来た。特に、今後のCMOSの技術進歩の方向に関しては、非常に興味深い見識を披露していただけたと思う。今日明日にすぐ反映される訳ではないにせよ、今後の半導体業界がどういった方向に向かうべきなのか、を包括的に判りやすく示していただけた事に感謝して、この原稿を締めくくりたいと思う。