続いては、複数台の移動ロボットによる大型物体の協調ハンドリングについて。パワーのある大型ロボットが1台いれば、大きな目標物体でも搬送できるかも知れない。なぜ小型ロボットが複数台で運送するかというのは、運用スペース的な問題が発生することがいくらでも考えられるからである。ただし、複数台のロボットを協調作業させるためには、もちろんそれはそれでまた難しい技術なのは間違いない。

今回のデモでは、基本的な問題設定として2台の移動ロボットによる物体持ち上げ動作をできるだけ短時間かつ確実に遂行することを目指すと形で行われた。研究の主眼は、ロボットの機構設計並びに協調作業設計である。

ロボットの機構設計として考慮すべき点は、動作時にロボット間に過大な内力がかからないこと、作業中に対象物が振動しないこととだ。この目標を実現するため、1台のロボットが物体を把持し持ち上げる「グリッパロボット」(これまで搭乗したグリッパを前部に備えたロボット)、もう1台のロボットが物体を下から支えて持ち上げる「リフタロボット」(画像8)という構成となっている。

画像9。リフタロボット。下部の前部に突き出た鉄板を目標物体の下に差し込み、リフト機能で持ち上げるという役目

この構成により、水平方向の3自由度はグリッパロボットのみが物体に拘束を与え、水平方向の重力補償は2台のロボットで分担するという構造になり、目標を達成できる形だ。

ロボットの協調動作生成規則は、以下の3つの手順を取る形だ。その1が、グリッパロボットがセンサを用いて物体の把持位置を認識し、そしてアプローチしてつかんで物体を傾けながら持ち上げる(画像10)。その2が、その持ち上げたすき間にリフタロボットがリフトの金属板を差し込む(画像11)。最後にその3として、最後にグリッパロボット、リフタロボットそれぞれが同期してある一定の角度の円弧運動をすることにより、目標状態(ロボットと物体が一直線上に整列する状態)に達するというもの(画像12)。

画像10。少しわかりにくいが、右端で先行したグリッパロボットがプランターを持ち上げて、リフタロボットを呼び寄せているところ

画像11。グリッパロボットが持ち上げているところに、横90度からリフタロボットがリフタの鉄板を差し込んだところ

画像12。グリッパロボット、プランター、リフタロボットが一直線上に並ばないと運搬するにはバランスが悪いので、一直線上になるようリフタロボットが位置を修正。これで運ぶわけだが、あまり調子がよくなかったようで、リフタが高くは上がらず、わずかしか運搬できなかった

今回のデモでは、3番目の手順の円弧運動を、物体ハンドリング時の力学的制約、ロボットと物体の干渉回避、ロボットの動作制約を考慮した制約条件付き最適化問題として定式化し、ペナルティ法とランダム多スタート局所探索法を用いて解くアルゴリズムを提案したとしている。

こちらもシミュレーションおよび実機実験により提案手法の有効性が示された。外界センサを用いて移動ロボットの相互の位置姿勢を計測しつつ(2台のロボットは無線LANで通信を行って情報交換している)、持ち上げ実験に成功している。

また、今回のデモの内容には入っていなかったが、「複数移動ロボットによる多数物体再配置作業における作業分担法」というテーマのパネルも用意されていた。

複数個の物体をある位置から指定された目標位置まで搬送する物体再配置作業は、生産システム、機器の搬送、室内の片付けなど実際のさまざまな場面における基本的なものであることから、物体や壁などの障害物は位置に応じた高速な多数物体搬送作業の実現を目指すとしている。

そうした作業では、以下に挙げる2つの課題を解決することが重要であるという。1つが、物体や壁などの障害物は位置に応じた物体受け渡し位置の決定法、そしてもう1つが、受け渡し位置を決定した後、つまり作業分割を行った後の作業割り付け、移動経路の決定法である。

ここでは、前者に対してはロボットにとって時間コストの高い物体受け渡し回数の受け渡しを必要最小限にするためには、受け渡し位置を1台しか通れない通路(隘路)でのみ設定する方策を取ることにした。

後者に対しては、「メタヒューリスティクス法」の1つである「焼きなまし法」を用いて実用的な時間内で準最適な解を求めるようにした形だ。研究では、評価関数としては作業全体の完了時間と設定したが、それは当該作業を「k-SCP」(k-Stacker Crane Problem)としてモデル化し、近似解放により導解している。

現在はシミュレーションのみのレベルだが、そのシミュレーションでは、提案方法を従来法である物体ごとに作業分担する方法と領域ごとに作業を分担する方法と比較して評価を実施。結果から、今回の提案方法を用いることにより、シミュレーションに用いたどの作業環境でも、2つの従来法より短時間で多数物体再配置作業を達成できたとしている。

ロボットが3台、物体が10の場合のシミュレーション結果が画像13だ。再配置を終えるまで、104.2秒かかっている。なお、実験ではセンサ誤差が存在する環境下でもきちんと動作することを示したという。それらのことから、この提案方法の有効性が明らかになったとしている。

画像13。3台のロボットが10個の物体を再配置するというシミュレーションの様子。104.2秒で完了(移動ロボティクス研究室研究紹介PDFより抜粋)

さらに、「作業時間とコストを考慮したロボットシステム選定法」というテーマのパネルも展示されていた。内容は、作業時間とコストの両方を考慮したマニピュレータシステム選定におけるパレート最適解を短時間で導出する方法の提案だ。これは非常に専門的な解説であったため、興味のある方は移動ロボティクス研究室のWebサイトにPDFが用意されているので、目を通してもらいたい(今回のデモ関連の専門的な説明も合わせて読むことが可能)。

ロボットの取材をしていて、筆者が個人的に最近よく思うことの1つが、ロボットに「物体を認識させることの難しさ」とそこからあぶり出されてくる、ヒトの「認識力の高さ(すごさ)」である。太田教授は1989年から群知能ロボットの研究を行っているが、同様に研究すればするほど人間のすごさがわかるそうで、ロボットを人間レベルの認識力に引き上げるのはまだまだ時間がかかるとしている。

人間の認識の仕組み(脳の内部的な仕組み)がまだ完全に把握されていないのもあることから、ロボットに同じことをさせるというのはなかなか難しいようだ。ただし太田教授自身は、先の話ではあるが、一般家庭の部屋の片付けなどをロボットが行えるようにしたいとしている。

実際に今回のロボットたちのデモを見た感想としては、PIONEER-3DXクラスのサイズのロボットが2台ぐらいまでなら一般家庭で使用してもスペースの問題をかなり少なくすることができ、このサイズのお片付けロボットができてくれたら非常にありがたいところである(もちろん、小さいに越したことはないのだが)。

おそらく、本格的に家庭にロボットが入っていく時代が到来するには、掃除や片付け、洗濯物を干したり取り込んでタンスにしまったりといった作業をこなせるレベルにならないと一般消費者には購入する気にさせられないと思うので、こうした認識技術は本当に重要だというのを改めて感じた取材であった。