介護者と要介護者の両者に優しい移乗ケアアシスト

寝たきりの方をベッドから車いすなどに移乗をする作業や、トイレでのオムツ換えの作業などは要介護者にとっても大変だが、介護者にも非常に負担がかかる作業で、腰を痛めてしまう人が多い。またオムツ換えの作業は、1人の介護者が要介護者を抱きかかえて立たせ続け、その間にもう1人の介護者が取り替えるという2人がかりの作業となるため、要介護者にとってはプライバシー的にも厳しいものがある。そうした介護者と要介護者の双方の負担を減らすことを目的に作られたのが移乗ケアアシストだ(画像17~20)。こちらは一般の人が体験するのはまだ無理ということだったので、接写をさせてもらった。それと同時に、技術取材会でのデモンストレーションの様子も紹介したい。

画像18。移乗ケアアシストを前方から。重量140kgという大型ロボットである

画像19。要介護者が身体を預ける側から。緑色のマットのホールド部分にうつぶせになるような形で要介護者は身体を預ける

画像20。フットスペース。凹みの部分に要介護者が足を置く。ここも要介護者の体格に合わせて高さを変えられる仕組み。その手前側で接しているグレーの逆U字型の金属パーツは、引き起こすと腰掛けの脚部となる

画像21。可動部分。要介護者の身長に合わせ、ここで本体上部のホールド部分を首振り状態で上下動させる仕組み。画面右の緑色のものは、腰掛けの座面。使用しない時はここにセットしておく

移乗ケアアシストは要介護者の持ち上げ・降ろしを行うパワーアシスト機能と、人を運ぶ際の移動アシスト機能の2つを併せ持つ。また、要介護者にとっては安心・快適な持ち上げ・降ろし機能として、優しいホールド形状と力の自動調整、負担のない持ち上げ・降ろし軌跡を実現した機構なども特徴だ(画像21~24)。

画像22。移乗ケアアシストの利用の様子その1。要介護者の方にまずベッドに座ってもらい、足をフットスペースに置く。そして移乗ケアアシストのホールド部分を下に向け、そこに要介護者は胸からお腹の部分が接触するようにして身体を預ける。そして両サイドの保持アームが要介護者を挟み込むようにしてホールド完了

画像23。その2。要介護者を固定したら、ホールド部分を上に向け、要介護者の腰がベッドから浮いた形にし、移乗ケアアシストを移動させる。移動には、アーム先端の介護者操作用のグリップの内側にボタンがあり、それを押すことで動かせるようになる

画像24。その3。移動中。移動距離が長い場合は、画像のように腰掛けをセットして要介護者に座ってもらうこともできる。移動は非常に滑らかで、移乗ケアアシストの自重140kg+モデルのような大柄な男性の重さがあっても女性がスイスイと動かせる

画像25。その4。トイレのオムツ換えのデモンストレーション。現在の介護の現場では、移乗ケアアシストが行っている抱え上げ続ける役を1人の介護者が行って、もう1人の介護者がオムツを替えており、抱え役の人が腰を悪くしてしまう事故が多い。なお、ステージ上のトイレは一般的な障害者用トイレと同じ程度のサイズで、移乗ケアアシストは問題なく入ることができる

また、複数箇所にコントローラーが設置されている点も特徴(画像25・26)。これは、移乗ケアアシストは大きなボディ(幅700mm×長さ995mm×高さ900mm)であるため、トイレなどの狭い場所に入った時にコントローラーが片側にしかなかったりすると、手が届かないといったこともあり得るので、左右と前方のどこからでも必ず押せるように3箇所設けることにしたというわけである。

同様に、要介護者を乗せた状態で移乗ケアアシストごと移動する際のアシスト機能(本体重量140kg+要介護者の体重を楽々押したり引っ張ったりできるようになる)を作動させるスイッチも、複数箇所に設置されている。左右の保持アーム先端のグリップと、前部左右にあるグリップの計4箇所である。

画像26。本体前面のコントローラー部分。左右にある小型のコントローラーとは若干内容が異なり、ここには電源スイッチと緊急停止ボタンがあり、あとは移動用のボタン(前後左右と左右旋回)がある

画像27。左右の小型コントローラー。こちらにはホールド部分の上下や首振り、ステップの高さ調節、保持アームの開閉、本体の移動を行うためのボタンが用意されている

画像28。前部グリップの内側の移動用のボタン。画像は右側のものだが、左のものにもある

画像29。左右の保持アーム先端のグリップにも移動用のボタンがある。これだけ設置されていれば、どこからでも1箇所には手が届くというわけだ

また、要介護者が胸の辺りで体重を預けるホールド部分は形状以外にも、素材にも気が配られている。あまり柔らかくなり過ぎないようにしてあるそうだ。それから表面の素材も滑らないような摩擦の高い感じであった。

長距離を移動する際は、要介護者が胸に負担のかかる姿勢を取り続けないで済むよう、イス(というか腰掛け)をセットすることも可能なのだが、イスの座面は取り外して本体左横にセットされており、イスの脚の部分は普段は寝ている足下のフレームを立たせる形で、そこに座面をセットしてイスにするという具合だ。

なお、移乗ケアアシストは本体重量だけで140kgもあることから、あくまでも病院や介護施設での使用に特化する形になるそうである。家庭用は、この後に紹介する自立歩行アシストを応用して介護者用のアシストシステムとするなど、また別の仕組みが必要だろうということを開発スタッフの方は話をしていた。

装着者の意思を検知してサポートする自立歩行アシスト

片足の下肢麻痺などで歩行が不自由な方の自立歩行支援を行うのが、自立歩行アシストだ(画像29~32)。遊脚(歩行)時は、脚の角度を姿勢センサで、足裏荷重を荷重センサでそれぞれ読み取り、歩行意図を推定してヒザの振り出しを制御する機構となっている。また、立脚時はヒザが折れてしまったりしないよう、ロックして確実に体重を保持する構造を持つ。同時に、装着したまま座れる=ヒザが深く曲がることにも対応した機構にもなっている。

画像30。自立歩行アシストのヒザ部分。このシステムを応用することで、家庭用の介護者用アシストシステムも作られる可能性もある

画像31。かかと部分。これだとわかりにくいが、靴底のソール部分も自立歩行アシストの一部分となっている

画像32。ヒザ部分を裏側から。歩行に障害を持つ方が装着する装具と同様に、自立歩行アシストも装着者の脚部のサイズに合わせて設計されているので、誰でも彼でもすぐに装着できるというものではなく、試しに装着は叶わなかった

画像33。かかと部分を後ろから。ソール部分の上に靴で乗っているのがわかる

自立歩行アシストの装着は、残念ながら現状では装着者ごとにサイズを変更する必要があり、試しに装着することは叶わなかった。デモンストレーションで気がついた点としては、装着者が歩いてくるとモーターの音が聞こえ、アシストしているのが音でも確認できたといったところだ。

なお、これら介護・医療支援向けパートナーロボットの実用化に向けて動きだが、まずロボットの安全性が重要ということで、産官学連携した基準作りを推進中だ。こちらは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の生活支援ロボット実用化プロジェクトの一環として、つくば市にあるロボット安全認証センターが活動を始めており、トヨタも参画している。そのほか、ISO国際標準化ワーキンググループでロボットの安全標準を検討中で、本質安全+機能安全による安全プラットフォームを確立していくという。

具体的な製品の展開計画に関しては、2012年はモニターの拡大を目指し、2013年以降に実用化を目指すとしている。個別には、バランス練習アシストは2013年以降も病院においてモニタリングを続け、2010年代中に実用化を目指す予定。移乗ケアアシストは病院・介護施設でのモニターを2013年以降も続ける方向で、実用化は最も遅くなりそうである。自立歩行アシストも2013年以降の実用化を目指す形だ。

今回実機がなかった歩行練習アシストが最も早い段階で実用化になりそうで、2013年の早い段階で実用化を目指す予定だ。